2022.10.11

トラックメイカーのための音楽理論|第5回 コードの理論① ダイアトニックコード

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これまでサウンド、リズム、メロディに関する理論を扱ってきましたが、ひとつ抜けていた分野があって、それがコードに関する理論です。他よりも内容が少々難しいためこれまで触れずにいましたが、今回いよいよ解説をしていきたいと思います。

コードとは

さて【コード】とは「和音」のこと、つまり複数の音を同時に鳴らしたものです。典型的にはギターの弦をジャランといっぺんに鳴らしたものなどがそうですね。

そしてこのように複数のコードを繋げていったまとまりが「コード進行」と呼ばれます。

あるいは単音のベースとリードを一緒に鳴らした場合も、最終的な音響としては2音鳴っているので、それらを合わせてコードとみなせます。

こうしたトラップやテクノなどベースを主体としたミニマルな音楽ではさほどコードというものを意識せずに作曲ができますが、それでも音が重なりさえすればそこにコードは存在していると言えます。

コードネーム

コードに関する理論は複数の音の組み合わせを論じることになるので、リズムやメロディの理論と比べるとどうしても複雑なところがあり、苦手意識を持っている方も少なくないと思います。とりわけ学習のハードルを高くしているのは、【コードネーム】の存在でしょう。

コード理論では例えば「ソシレファ」と重ねた和音を「G7」と呼ぶ、「ソドレファ」だったら「G7sus4」と呼ぶなど、全てのコードをルールに沿って記号化するシステムを採用していて、こうした名前をコードネームといいます。

ちょっと面食らってしまいますよね。マスターしてしまえば便利なのですが、しかし学習の壁として立ちはだかっていることは否めません。

ただ実際のところ、実践でコードネームが必要になる場面というのは「コードネームを読んで演奏をする時」「曲のコードを人に伝える時」など案外限られています。つまり、自分でトラックを制作するぶんには実はコードネームの暗記は必須ではないのです。

そこで今回はあえてコードネームの話には触れず、より原理原則的な部分だけに的を絞って解説していこうと思います。

ダイアトニックコード

第3回で説明したとおり、曲中では全楽器が足並みを揃えてひとつの音階を使って「キー」をハッキリさせるのが基本です。したがってサンプルや歌にコードで伴奏をつける場合も互いに音階を揃えてあげなければなりませんし、逆にコードから作曲を始める場合も、音階を意識しないと後からフレーズを乗せるのが難しくなってしまうリスクがあります。

例えばCメジャーキーで曲を作るという場合、白鍵の7音のみを使う状態が原則となるわけなので、コードもやはりこの7音からの組み合わせで作るのが基本となってきます。

「たった7音」という感じがしてしまいますが、コードはその組み合わせですから、作れる和音の数は膨大です。実際に試しにいくつか和音を自由に打ち込んでみるとわかりますが、3~4音程度の組み合わせでも数えきれないほどのパターンがあって、選択肢が多すぎて逆に困るくらいです。

“ひとつ飛ばし”で3個

しかしながら実際に作曲でよく使われる基礎的なコードというのは限定されていて、それが音階の音を“ひとつ飛ばし”の間隔で3個重ねて作るコードです。

このようにして作られた「ドミソ」「レファラ」……の7つのコードが、Cメジャーキーでの曲作りの一番の基礎となります。膨大にある組み合わせの中の、たった7つなのです!

ギタリストがたくさんのコードを暗記しているのは、楽器の性質上コードの押さえ方を名前とセットで暗記していないとコードが鳴らせないという事情があるからです。しかしDAWで打ち込むぶんには、「音階に沿ってひとつ飛ばし」という原理を理解していれば十分に作曲に持ち込めます。

三和音と四和音

3個積みの和音は音響的にも簡素でまさに基礎という感じなのですが、もう少し複雑な風合いが欲しいという場合、さらにもう1個音を積んで4個積みにするとよいです。

音が増えたことで濁りが生じ、より複雑なサウンドが生まれます。3個積みの和音は文字どおり【三和音】、対する4個積みの方は【四和音】といいます。あるいはこの四和音については、コードの一番低い音から数えて7番目の音が乗っかることから【セブンスコード】とも呼ばれます。

シンプルなサウンドを求める場合は三和音、複雑にしたければ四和音と使い分けるのがよいですね。

この「音階に沿ってひとつ飛ばしで重ねて作ったコード群」のことを、【ダイアトニックコード】と呼びます。上図の例では白鍵のみの「Cメジャーキー」の音階を元にしたので、「Cメジャーキーのダイアトニックコード」というふうに称されます。

マイナーキーの場合

マイナーキーの場合でも、基本となるコード群の作り方は変わらず、「音階に沿ってひとつ飛ばし」で積んでいきます。例えばCメジャーキーと同じく白鍵の7音を使うAマイナーキーの場合は……

これらが「Aマイナーキーのダイアトニックコード」となります。同じ7音からコードを作ったので、出来上がったコードたち自体はCメジャーキーのものと全く同一ですね。ただしAマイナーキーではA(ラ)の音が「主音」(第3回参照)ですから、コードもラから積んで作った「ラドミ」や「ラドミソ」を主として用いることになる点だけが異なります。

音階の構成音が同じなので、「ダイアトニックコード」の顔ぶれも同じになる。そういった点でこの2つのキーはワンセット、ペアのような関係にあると言えます。

別のキーの場合

なかなかややこしい内容だと思うので、もうひとつ別のキーを例にとります。他のキーだと黒鍵の音が音階に入ってきてちょっと煩雑になりますが、それでも「音階の音をひとつ飛ばしで重ねて作った7つのコードが基本」という法則は変わりません。

例えばAメジャーキーでコード進行を作るという場合、まずはAメジャーキーで使う音階の音を、第3回で紹介した「五度圏」を参照するなどして確かめます。

音階がわかればあとは「ひとつ飛ばし」で3個ないし4個の音を積めば、それがAメジャーキーで最も基本候補となるコード群、すなわち「Aメジャーキーのダイアトニックコード」となります。

ヴォイシング

そんなわけで「ひとつ飛ばし」で構築する「ダイアトニックコード」がコード進行作りの基本となるのですが、実際に音を並べる際にはコードを構成する各音の置く数や高さに関して自由度があります。

例えばピアノ演奏の場合、①のようにまず低いところのドを左手で、さらに右手で「ミソド」といった配置はおなじみです。また打ち込みなら③のように人間の2本の手では弾けないくらい広範囲に音を開離させる配置もありえます。それからギターだと「ドミソ」の和音は④のように「ドミソドミ」と5本の弦を鳴らす押さえ方が最もスタンダードなので、本物らしく打ち込みたい時にはこうして実際のギターでありうる配置を模倣するのがよいでしょう。

こうした音の配置は音楽理論においてはズバリ【配置】と呼び、また英語では【ヴォイシング】といいます。同じコードでも配置しだいで微妙に印象が変わるので、編曲や楽器の音色などから総合的に考えていくところです。

ベースの重要性

コード構成音の配置にあたって大切な知識がひとつあって、それは低音パート(ベース)がどの音をとるかがサウンドに極めて大きな影響力を持つということです。

例えば「ドミソシ」の和音の配置を考えるとき、高めの音域で音がどう配置されていようとさほど変化は大きくないのですが、一番低い音域を担当するベースパートにドではなくミ・ソ・シを選ぶと、サウンドがずいぶん変わってきます。

こうした配置は“間違い”ということでは決してなく、活用できる場面も多々ありますが、ただ少し応用的なチョイスではあります。例えば③のようにミが低音に居座った場合には、構造的には別のコードである「ミソシ」の和音に少し近似したような状態になっています。

そのためサウンドとしてもやや中間的な性質を持った別のコードになるとイメージしてください。

それ以外のパターン

もし「ひとつ飛ばし」で作るサウンドに飽きてしまった場合は、ぜひまず音階の7音の範囲で音をずらしたり足したりすることを試してみてください。例えば「ドミソ」にレの音を足してみる、「ソシレ」の真ん中の音をずらして「ソドレ」にしてみる、または「ソシレ」の下にベース音でラの音を足してみるなど。音階内の範囲であれば、極端な濁りは生じづらいです。

まとめ

このようにして、たとえコードネームを知らなくても、キーと音階という基礎を理解していればある程度コードを使いこなすことが可能です。

今回紹介した「ダイアトニックコード」は最も基礎的なコード群なわけですが、シンプルなコードのループによる作曲が珍しくない昨今のポピュラー音楽においては、ダイアトニックコードだけで出来たヒット曲というのもたくさんあります。

例えば2021年のIFPIグローバル・デジタル・シングル・アワードのトップ3を飾った「Save Your Tears」「STAY」「Levitating」はいずれも最初から最後までダイアトニックコードだけで曲が完成しています。コードはその基礎を知っておくだけでも強力な武器になるでしょう。

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著者プロフィール

吉松悠太(Yuta Yoshimatsu)
サウンド・GUIデザイナー/プログラマー、ピクセルアーティスト、音楽理論家。慶應義塾大学SFC卒業。在学中に音楽理論の情報サイト「SONIQA」を開設。2018年に「SoundQuest」としてリニューアルし、ポピュラー音楽のための新しい理論体系「自由派音楽理論」を提唱する。またPlugmon名義でソフトウェアシンセのカスタムGUIやウェイブテーブル、サウンドライブラリをリリースしている。2021年にはu-he Hive 2の公式代替スキンを担当。Soundmain Blogでは連載「UI/UXから学ぶDAW論」も執筆。

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