2022.10.17

世界初のサンプラー「Fairlight CMI」のルーツを辿るドキュメンタリーが公開

「サンプリング」という言葉の生みの親として知られる、オーストラリアのFairlight社が1980年にリリースした世界初のサンプラー「Fairlight CMI」のルーツを辿るドキュメンタリーが公開されました。

The Age & Sydney Morning Heraldが制作した『The Fairlight CMI – the story of the first commercially available digital sampler and sequencer』は、エンジニアや教授、クリエイターらが出演し、オーストラリアが生み出した音楽シーンにおけるイノベーションの遺産であるFairlight CMIについて語るという内容になっています。

ドキュメンタリーでは、オーストラリアにあるANU音楽スクールのサマンサ・ベネット教授が、Fairlight CMIが現代の音楽制作に与えた影響について、「アーティストが自分の音を録音し、それをメインキーボードから取り込むという実験の機会をFairlight CMIが与えてくれたことは、まさに画期的なことでした」「それは、音楽技術として最も偉大なもののひとつであるだけでなく、オーストラリアが生んだ最も偉大な発明のひとつででした」と述べています。

今夏に公開されたNetflixの人気ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン4では、劇中曲として使用されたKate Bushの1985年の楽曲「Running Up That Hill」が、全米シングルチャートでトップ10入りや全英シングルチャート2位を獲得するなど、リバイバルヒットしました。同曲のメインリフは、Fairlight CMIに含まれるチェロのサンプルのひとつを使い、それをKate Bushが様々に操作して作られています。

ちなみにKate Bushは、それ以前からFairlight CMIを使用しており、彼女の1980年のアルバム『魔物語(Never for Ever)』は、Fairlight CMIを利用した最初の商業的にリリースされたアルバムとしても知られていますが、そのほかにもThe Art Of Noise、Thomas Dolby、Herbie Hancock、Stevie Wonder、Peter Gabriel、坂本龍一、久石譲など国内外の著名アーティストがかつてFairlight CMIを自身の楽曲制作に取り入れています。

またFairlight CMIのサウンドは、以前、Soundmainでも特集したビンテージ機材の質感を再現する「フィジカルモデリング」技術を活用したArturiaのエミュレート系ソフトシンセバンドル「V Collection 9」にも収録されるなど、最近では若い世代のクリエイターにも愛用されています。そういった機材を現在使用している人や、これから使用したいと思っている人にとっては興味深いドキュメンタリーではないでしょうか?

なお、SpotifyにはFairlight CMIを使用した代表曲をまとめたプレイリストも公開されています。ドキュメンタリーとあわせてチェックしておくとよりFairlight CMIのサウンドの魅力が理解しやすくなるはずです。

文:Jun Fukunaga

【参考サイト】

Fairlight CMI’s origins and impact explored in new documentary
https://musictech.com/news/gear/fairlight-cmi-documentary-sampling/