
Makotoが語る、クリエイティヴな意識を高めて海外シーンで戦うには(インタビュー 3/3)
99年、LTJ Bukem率いる名門ドラムンベース・レーベル「Good Looking Records」と日本人として初のアーティスト契約を結び、一躍日本クラブミュージック・シーンの“時の人”となったMakoto。
ファースト・アルバム『Human Elements』を全世界でリリース後、DJとしても世界中を飛び回るようになり、国内と海外での知名度が逆転。現在はLondon Elektricity率いる「Hospital Records」の所属アーティストとして活躍しており、昨年、再び盛り上がりを見せるヨーロッパのドラムンベース・シーンの中心地ロンドンに居を構え活動することを決意。
平日は楽曲制作、週末はヨーロッパ諸国でDJギグをこなす傍ら、最新アルバム『Tomodachi Sessions』のプロモーションを精力的にこなしているMakoto氏にインタビューを実施した。
今回は、シーンの中心地でクリエイティヴな気持ちを保ちつつ活動することについて語る最終回をお届けします。
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人間、必死になれば英語も喋れるようになる
他の国でドラムンベースが盛り上がっている国はありますか?
オランダが結構盛り上がってますね、自分もプレイした「Liquicity」っていうフェスがあって、アムステルダム近郊で3日間開催しているドラムンベースだけのフェスなんですけど、毎日数千人が入るほど人気なんです。
元々はYouTubeチャンネルから始まったネットレーベルで、YouTubeでどんどん人気が出て、イベントすると何千人も集まったり、皆がグッズを身に着けてたりするんです。
オランダだと16歳からクラブに入れるんですよ。勿論お酒は買えないですけど。なのでオランダのイベントだとエネルギーがハンパないですね。
あとは少し前にクロアチアに行ってたんですけど、クロアチアのティスノっていう場所でドラムンベースだけのフェスを5日間やってて、そこに4千人来てました。場所はハウスレーベルのDefectedがフェスをやってるところと同じです。
ロンドンに移住して改めて、イギリスは本当に地理的に凄く便利なところにあるなと思いましたね。アメリカに行くにも遠くないし、ヨーロッパはすぐ隣りですし。
逆にロンドンに移住してストレスとか感じるときっていうのはありますか?
今の環境だと自宅で大きい音を出せないっていうことですかね。ロンドンは家賃が高いので、今一人では住んでいないんです。ただ一緒に住んでる人達は皆音楽活動をしている人達なので、音を出しても文句を言われたりすることはないんですけど、まあ人と住むのはストレスっていうか(笑)。
もうちょっと頑張って、一人で住めるようになるのが次の目標です(笑)。
若い子が持ってるエネルギーを吸収していかないといけない
毎週のDJギグはどういう流れで決まっているのでしょうか。体力的に辛かったりしますか?
エージェンシーのブッキング担当の人がギグをとってきて、アシスタントの子がフライトとかホテルとかの流れを作って予約をしてくれて、自分ひとりで空港に行って飛行機乗って、着いたら現地のプロモーターと合流して、DJしたら帰ってくるっていう流れです(笑)。

フライトの時間を良い時間帯に設定できると全然辛くないんですが、行き場所によってはLCCを使わないといけなかったりするので、そうすると早朝のフライトだったり、DJ終わったらすぐ帰らないといけなかったりするんですよね。そういうのはたまにキツいときがありますね。
DJの機材的には標準的なセットアップです。Traktorを使っているんですが、Pioneer DJMだとパソコンを直接ミキサーにさせるので、そこだけはきちんと用意してもらってます。あとは飲み物とか書いてあるくらいで、あまり細かい内容ではないですね。
HospitalのイベントでDJして感じたのは、自分達の世代に刺さる曲をかけても、若い子が全然反応しなかったりすることがあることです。メインの客層が若い子達のイベントでもDJするので、若いアーティストが何をやってるのか、若い子達はどういう曲に反応するかなどを常に考えていかないと、DJとしても成立しなくなってきているというか。
若いアーティストは若い子に人気があるじゃないですか、だから彼らのファンにもリーチしていかないとダメですし、自分もオールドスクールとして見られるのは嫌なので、若い子が持ってるエネルギーを吸収しないといけない。
若々しい精神を保つために、何か心がけていることはありますか?
若い子たちと沢山コミュニケーションをとる事かもしれません。英語だと敬語とかないし、向こうも対等な態度で接してくれるので、その辺はこっちだとすごくやりやすいです。
トレンドを自分なりに消化して、自分の音としてどう出すか
今ロンドンにいることが、クリエイティヴな面でとてもプラスになっている状態ということですね。
何でもっと早くやんなかったんだろうって思ってます(笑)。20代の頃に凄く行きたいとは思っていたんですけど、怠けていて行けなかったっていうのがあって。
でも色々経験してきたからこそ、このタイミングで決められましたし、経済的にもある程度こちらで活動できるように準備してから来れたのも大きいと思います。
因みにGood Lookingと契約したとき英語は喋れたんですか?
全く話せなかったですね。高校大学で習った程度で、話すのは全く出来なかったです。だから最初は凄く苦労しましたね。
でも仕事で使わないと生きていけないっていうか、喋れなかったらギャラももらえないですし、人間、必死になればできるようになるんだなって思いました(笑)。
でも現場で自然に覚えていったので文法は適当です。通じればOK!みたいな(笑)。
新しい才能が出てきたりするなかで、どういう風に自分の色を出していこうかなど考えていることはありますか?
無理しない、っていうことですかね。無理して人の真似をしてもよくないですし。ただトレンドは絶対追いかけて、それを自分なりに消化して、自分の音としてどう出すかについては常に考えていますね。
ダンスミュージックなので、トレンドを追わないと音が古くなってしまったりするし、常に新しいのはちゃんとチェックしないといけないと思っています。
DJ以外のときは昼間仕事して夜は寝る普通の生活
最近だとメンタルヘルスとか話題になっていますが、健康面で気をつけていることはありますか?
DJ以外のときは朝早く起きて、太陽の光を浴びて、昼間仕事して夜は寝るっていう普通の生活をすることですね。ちゃんと寝ることに一番気をつけてます。夜もメールとか一切やらないようにしていたりとか。
楽曲制作への創作意欲やモチベーションは、どういう風に保っていますか。
丁度アルバム作り終えたところなので今は完全燃焼してる感じですけど、ここで完全燃焼しっぱなしで何年も作らなかったりすると忘れられちゃうので、どうにかモチベーションを上げてコンスタントに作っていかないと、って思ってます。
よほどのヒットがない限り定期的に曲を出していかないといけない状況ですけども、曲が消費されるのも凄く早くなっているので、ヒット曲が生まれにくい状態でもあるんですよね。
凄い消費されるのが早いから、新曲をどんどん作っていかないと難しいし、少しでも怠けると忘れられてしまう。結構凄いプレッシャーなんです。
ドラムンベース以外から制作のヒントを見つける
自分なりのモチベーションの上げ方とか、ありますか?
ドラムンベースを聴かないようにすることですかね。勿論DJの準備をするときは聴きますけど、普段は他のジャンルの音楽を聴くようにしてるんですよね、そこで新しい制作のヒントを探すというか。
今凄い面白いことが起きていて、他のジャンルのアーティストが、ドラムンベースとかジャングルの要素を取り入れてたりしているんですよ。
そういうのを聴くと「あーなるほど」って思ったりしますし、こうやって他のジャンルからインスピレーションを得たりすることは多いですね。
ドラムンベースの未来はどのようなイメージですか?
今、90年代からの世代と90年代に生まれた世代がうまくミックスされてとても良い感じなんです。だから僕個人としてはこの流れがずっと続いてもらいたいですが、いつかまた他の流れが出てきて少し低迷期に入ったりすることもあると思うんです。これはどのジャンルにも言えることですが。
そうなっても常に残れるだけのジャンル、ヒップホップ、ハウスやテクノのような大きなジャンルにもっとなっていってほしいと思います。

取材・文:岩永裕史(Soundmain編集部)