
Makotoが語る、最先端サウンド・デザインを用いた制作スキルの磨き方(インタビュー 2/3)
「曲はすごくいいけど、サウンド・デザインがダメだ」
99年、LTJ Bukem率いる名門ドラムンベース・レーベル「Good Looking Records」と日本人として初のアーティスト契約を結び、一躍日本クラブミュージック・シーンの“時の人”となったMakoto。
ファースト・アルバム『Human Elements』を全世界でリリース後、DJとしても世界中を飛び回るようになり、国内と海外での知名度が逆転。現在はLondon Elektricity率いる「Hospital Records」の所属アーティストとして活躍しており、昨年、再び盛り上がりを見せるヨーロッパのドラムンベース・シーンの中心地ロンドンに居を構え活動することを決意。
平日は楽曲制作、週末はヨーロッパ諸国でDJギグをこなす傍ら、最新アルバム『Tomodachi Sessions』のプロモーションを精力的にこなしているMakoto氏にインタビューを実施した。
今回は、現在の海外ドラムンベース・シーンや、最先端のサウンド・デザインについて語るインタビュー第2回をお届けします。
第1回はこちら:
今のドラムンベースシーンで、人気のレーベルやアーティストを教えてもらえますか?
レーベルでいうと「Hospital」、あとAndy Cのレーベル「RAM」が人気で、アーティストでいうとChase & StatusやSub Focusみたいにメジャーと契約したアーティストがいたり、Dimensionのような新しいアーティストも人気がありますね。
それからKings Of The Rollersのような、「Jump Up」というほぼドラムとベースだけのサブジャンルの人気がUKで特に凄いです。そうかと思えば、Calibreのようなディープなサウンドのアーティストが、ロンドンのXOYOと言うクラブで2ヶ月間レジデント・パーティをしていたり。
メジャーなシーンだけではなくて、「Metalheadz」や「V Recordings」がロンドンでイベントをすると凄く人が入ってますし、メジャーもアンダーグラウンドも盛り上がってる感じですね。
レーベルのパーティーやフェスが盛んになっている
あと少し前から、レーベルが冠のパーティーやフェスが盛んになってきてますね。Hospitalであれば「Hospitality」とか、あとはRAMとか、ハウスであればDefectedとか。レーベルのイベントにお客さんが沢山来るので、凄く増えてますね。
レーベルもきちんとブランディングをして運営してるので、音楽だけでなくグッズも凄い人気ですね。街中でもたまにHospitalのTシャツを着てる人を見ますし、Hospitalのイベントやってるときに電車に乗ると、HospitalのTシャツを着てる人が沢山います。
日本だとロックコンサートに行くような感じが、クラブカルチャーにも起こっている感じがしますね。
若いクリエイターも沢山出てきましたし、イベントでは90年代から活動しているクリエイターと若いクリエイターが一緒に出演していて、お客さんも90年代からのファンと今の若い20代の子達がミックスされてるんですよ。
曲の長さがどんどん短くなっている
ストリーミングが中心の今の音楽シーンで、楽曲制作するときに自分の中で無意識・意識的に変えている、または変わってきていることなどありますか?
自主レーベル「Human Elements」の売り上げを紐解くと、半分以上がSpotifyになってるんです。残りはApple Music、iTunes、あとYouTubeやSoundCloudとかの収入が少しあるくらいで。
ストリーミングだと、アルバムが15曲収録でも、実際に聴いてもらえるのは最初の3曲くらいなんですよね。曲順的に下のほうの曲は、プレイリストとかに入らないと絶対再生回数が伸びない。
なのでコンセプトを決めてアルバムを作るというよりかは、人気の曲、聴いてもらえる曲を曲順の上のほうにして、それ以外は曲順が下のほうになっていくという。アルバムとしては少し悲しい感じになっちゃってますよね。
そうなんですね。
あと曲の長さは変わってきてます。昔だとドラムンベースであれば9分とか10分とかの曲が平気でありましたけど、何年も前からだんだん短くなっていて、今は自分の曲でも3分とかになってます。
これはDJの仕方も変わってきたっていうのが大きくて、レコードだとそこまで早くミックスすることが出来なかったんですけど、CDJだとビートマッチを殆どしなくてもいいので、曲もどんどん短くなっていって。
あと今はDJもロングミックスをしないスタイルなので、テクノロジーとDJの仕方が変わってきたことに対応するように、曲の長さもどんどん短くなっていますね。
レコードは今はコレクターズアイテムになっていて、モノとして良く作ることに重点が置かれてますね。例えばジャケットに凝ったり、カラーレコードにしたりとか。ただ片面に3曲とか入れないといけないので、音質的には現場では使えないんですよね。
若いアーティストは機材の使い方でも全然違うアイデアを持っていて面白い
Hospitalとはアーティスト契約をしているんですか?
そうです。アルバム1枚と、2枚のオプション権がある契約で、今のところ今回のアルバムで2枚終わって、今後もう1枚を作る感じです。
今度出るアルバムは、タイトルのとおり全曲誰かとコラボすることがコンセプトになっていて、12曲くらいは他のプロデューサーと一緒に作って、あと3曲はボーカリストとコラボしてるアルバムです。なのでここ1年くらいずっと誰かと一緒に作ってました。
もう全部PCの中で出来てしまうので、今作で一緒に同じ空間にいて制作したのは2~3曲だけで、あとは全部ファイルのやり取りで完成させました。実際に会ったことない人が何人かいたりしますよ。
若い子達とコラボするのもアルバムのコンセプトなんですけど、彼らは機材の使い方でも全然違うアイデアを持ってたりするのが面白いですね。自分の世代ではやらなかったことを若い世代はやってるっていうか。
アルバム制作はどのように進めていったのでしょうか。
自宅ではあまり大きな音は出せないので、ある程度自宅の制作環境で作って、最終的には外のスタジオに行って完成させる流れで作ってました。結構大変なんですけど、アルバムのクオリティー的には差はないので、何とかこの環境でも作れているのかな、と。
ダメ出しされることもあるけど、逆に良かったときはすごく褒めてくれる
Hospitalにディレクター的な人、曲のOKを出したりアドバイスをくれたりする人はいるんですか?
London ElectricityのTony Colmanと、あとChris Gossっていう一緒にHospitalを始めた2人が僕のA&Rをずっとやってくれています。
結構厳しいんですよ。メッタメタに言われることもあるし(笑)。でも言われたように直してみると「ああそういうことだったのか」と思ったりもするし、言ってもらえるとクオリティーがどんどん上がっていくので。
逆に良かったときはすごく褒めてくれるし、意見をもらえたほうがいいですよね。長くやっていてもわからないことは沢山あるし、第三者が意見をくれるのは自分的にも良いことだなと思います。
こういう風に、レーベルでリリースする音源について厳しくクオリティー・コントロールをしてるから、レーベルとしてのブランディングがきちんとされているんだろうなと思いますね。
他のプロデューサーやDJとコミュニケーションをとるなかで話題になってることとかありますか?
機材の話は常にしてますね。「あのプラグイン使ってみたけどいいよ」とか。自分とスキルが同じくらいのレベルの人達と話ができるので得るものが多いし、凄く役に立ってます。
Hospitalからも「こういうテクニックを使ってみて」とか指示がきたりして、使ってみると「ああなるほど」って思うこともあって。
例えば、どのようなテクニックを教えてもらったりしたんですか?
以前は、サイドチェイン・コンプレッションをエフェクトとして使うことはありましたけど、“音の居場所を作る”という感じではあまり使ってなかったんです。
ハウスやテクノのような4つ打ちなら、キックがなる時にベースがコンプレッションされて下がると言うのは知っていたんですが、ドラムンベースのようにサブベースが強いジャンルでは使ったことがなかったんですよね。
実はHospitalでリリースした最初のアルバムの制作のときに、Hospitalからもかなり言われたんです。「曲はすごくいいけど、サウンド・デザインがダメだ」って。
日本では同じテクニックを10年くらい使ってたし、サウンド・デザインやエンジニアリングの面って日本ではあまり話題にならなかったから、僕もあまり気にしてなかったんです。それで置いてかれちゃってた部分もあるんですよね。
Hospitalからかなり言われたことで、今じゃないとできないような新しいテクニックを学んで。それもあって自分の作品も以前のものとは全然違うサウンドになったというか、サウンド・デザイン的に今っぽいサウンドになったと思います。
サウンド・デザインが作曲の半分以上を占めている
テクニックを共有してもらえるコミュニティーにいないと、どんどん最新の音を出せなくなってしまうんですね。
そうなんですよ。メジャーのアーティストであればエンジニアの人に頼めたり出来ますけど、こういうアンダーグラウンドな音楽だと全部自分で最後まで、マスタリングまで完成させないといけないので。
ドラムンベースって凄くBPMも速くて、要素的にも忙しい音楽じゃないですか。だからサウンド・デザインをきちんとしておかないと、曲として成り立たないこともあるんです。ドラムンベースは曲よりテクニカルな部分がすごく大事なので。
サウンド・デザインも作曲の一部という感じですか?
半分以上占めてますね。3日で曲を作れても、完成させるのに何ヶ月もかかったたりとか。ああでもないこうでもないとか試行錯誤して、ミックスダウンするのに何週間もかかったり。自分的に嫌いなんですけど(笑)。
そもそもドラムンベースはBPMが170以上の速い音楽で、ドラムにブレイクビーツを重ねて使ったり、16音符のパーカッションが入っていたりして、ドラムとベースを作った段階でもうあまり音の隙間がないんです。そこにどうやってヴォーカルや上モノを入れて行くかがキーになります。
なので10年位前まではヴォーカル曲が極端に少なかったんです。それが先ほども話したサインドコンプレッションがDAW内で簡単に出来るようになって、意図的に音の隙間を作ることが出来るようになったので、どんどん増えてきました。
機材周りの話になるんですが、今のセッティングはどのような感じですか?
日本からはコンピューターしか持ってこなかったので、日本でも使っていたGenelecの8040とNative Instrumentsのキーボードを買って、全部PC内で作ってます。ビンテージ系の機材とかは日本に全部置いてきちゃったんです。

自宅では大きな音を出せないので、PCを2台同じ環境にしおいて、自宅ではデスクトップ、ミックスの時は外部スタジオにラップトップを持ち込んで作業しています。

これは絶対使ってるVSTシンセとかありますか?
必ず使ってるのはビンテージ・シンセのシミュレーターとかですね。Arturiaとか、UADのプラグインとか。皆が使ってるSerumとかMassiveとかはあまり使わないですね。自分は結構ビンテージの音が 好きなので。
あとは90年代のシンセのシミュレーター、例えばM1のVSTプラグインがあって、全く同じ音が入ってるんですよ。M1は自分的に知り尽くしてるシンセなので、逆に使いやすかったりするんです。あとはJVシリーズとか、自分でハードウェアで持っていたシンセのシミュレーターのRoland Cloud も結構使ってますね。これも自分的に知り尽くしてる機材なので、凄い使いやすいんです。
サウンド的にはプラグイン版と本物と比べてどうですか。
Roland Cloudはかなり良いと思います。ハードウェアに近いというか。ちょっと前までだとソフトは音が細いところもあったんですけど、今は別に気にならないというか。ハードはハード、ソフトはソフトの音っていう認識になっちゃいましたね。
ただフェンダーローズとか生楽器はまだ本物じゃないとって感じです。ローズは日本から持って来れなかったので、今の制作環境で使えないことだけがちょっと…でも今はフェンダーローズがメインの曲を作ってないので、何とか乗り切れてる感じなんですけど。
情報があっても、実際使った人から聞くのと記事を読むのとでは違う
spliceとか、最近のサービスやテクノロジーも使ってますか?
spliceは結構使いましたね。実は2年前くらいに若いクリエイターと話をしていたときに「splice知らないの?」「 何それ?」ってなって(笑)。
凄く便利ですよね。今までサンプルを買うために使ってきたお金はなんだったんだっていう(笑)。spliceを教えてもらったのも2年前だし、こういう情報も若い子から教えてもらえるので、ロンドンにいることはそういった面でも凄く助かってますね。
日本語で情報を得ようとすると、どうしてもタイムラグがあるんですよね。基本機材系のブログとかニュースとかって英語で配信されているので。例えばgearslutzとかで英語で記事を読めればいいですけど、日本語になるのに時間がかかってると思うので。
あと情報があっても、実際使った人から聞くのと記事を読むのとでは違うじゃないですか。実際使ってる人から聞くと「じゃあ自分も使ってみよう」ってなるし、そこはロンドンにいることが大きいですよね。
最近注目しているテクノロジーはありますか?
テクノロジーだと、iZotopeのAIを使ったプラグインは面白いですね。音を解析してくれて色々と提案してくれる。例えばマスタリングのプラグイン「iZotope Ozone8」でも、AIが音を解析して、レベルからEQから全部やってくれる。
マスタリングのプラグインは結構音もきちんとしているので、作った新曲を週末のDJギグで試したいときは、そのソフトを使ってレベルを他の曲と合わせてプレイしてます。
あとトラックごとにプラグイン「iZotope Neutron3」を挿しておくと、レベルを全部調整してバランスを取ってくれるんです。自分でミックスダウンしてても「これ自動でやってくれないかな」と思ってましたし(笑)、曲を作るほうにとってはとても有り難いです。
もちろんまだ完璧ではないですけど、PCが提案してくれるパターンを自分で少し変えて使っていく、という制作スタイルは少し前では考えられなかったっていうか。
こういうAI関連のテクノロジーが今沢山出てきていて、しかもどんどん発達してるんで、今後どうなっていくか凄く楽しみですね。
クリエイティヴな意識を高めて海外シーンで活動することについて語る第3回は、こちらをご覧ください!
取材・文:岩永裕史(Soundmain編集部)