
トラックメイカーのための音楽理論|第4回 リズムの理論② シンコペーションとシャッフル
今回は、連載の初回で学んだリズムの理論をもう一段階掘り下げていきます。
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リズムの理論では我々が1,2,3,4とカウントする「拍」を基本単位とし、それをさらに分割したものを表拍・裏拍と分類していきます。

初回では主にドラムのリズムパターンを主眼に説明しましたが、メロディなどその他の楽器のフレーズ作りに置いても表/裏のリズム編成というのはひとつの大きな要素となります。
シンコペーション
こちらはおなじみ「きらきら星」のメロディですが、そのリズムに着目すると、全て表拍に音が配置された単純なリズムであることが分かります。

単純というのは親しみやすいということでもあるし、一方では単調で刺激が足りなく感じられる可能性もあります。フレーズのリズムが聴覚印象に与える影響は強く、たとえサウンドやコードを今風のものにしても、童謡然とした雰囲気が抜けません。
ですがもしフレーズのリズムを裏拍へとずらすと、それだけで随分と印象が変わります。
それなりに現代的な装いになりました! このように、フレーズのアクセントを表からずらして裏拍に置くことを、【シンコペーション】といいます。これは決して特別な技法ではなく、普通に作曲をしていれば日常的に発生するものです。
たとえば、Zeddの「Stay The Night」では、メロディに先ほどの“改造版”きらきら星と似たシンコペーションのリズムが使われています。
歌詞でいうと<Are you>の後の<gonna>が手前へとずれ込んだような形になっていて、前のめりなリズムがフレーズに勢いを与えているような印象です。
特に今回のような4つ打ちのビートでは、裏拍のフレーズはキックと打点がずれることになるので、互いの音がぶつかることなく音量を稼ぎやすいというミックス上の利点もあります。
3-3-2のリズム
シンコペーションを含むリズムパターンは無数に考えられますが、数々の曲に使われている定型がいくつかあって、その代表例が「3-3-2」のリズムです。
8マス版

こんな風に8マス分のグリッドを3-3-2で分割したリズムが、メロディ、ベースライン、ドラムなどあらゆる場面で活用されています。
Ed Sheeranの大ヒット曲「Shape of You」は3-3-2のリズムをメインのループフレーズに採用した典型的な例ですね。
16マス版
3-3-2のようなリズムで、しかし1回の周期がもう少し長いものがいいという場合には、3-3-2を倍に膨らませたような、「3-3-3-3-2-2」というリズムも定番としてあります。

こちらも様々なテンポ、様々な楽器のフレーズで利用されています。合計16マス分ということで、先ほどの「3-3-2」よりも倍の長さを使うことになります。
Cash Cashの「How To Love」はこのリズムが曲を通して使われています。このリズムもまた4つ打ちのキックと合わせた場合に打点の多くが互いに重ならないため、EDMと非常に相性の良いリズムパターンですね。
32マス版
さらに倍の尺をとれば、「3」を10回と「2」が1回で32マスが埋まります。

一見かなり複雑なリズムに聴こえますけども、「3」の反復という規則性があるぶん、いくらかの聴き心地の良さが期待できます。
SkrillexとDiploによるユニット、Jack Üの「Where Are Ü Now」はドロップにこのリズムを用いた一曲。こうしたジャンルではあまり難しいスケールやコードを使いませんが、代わりにこうした特徴的なシンコペーションのリズムを大々的に採用することで、曲を印象深いものにしています。
もちろんこうした定型以外にも、微妙に打点をずらすことで様々なバリエーションを生み出せます。大まかに言えばドラム・主旋律・それ以外の伴奏という3つの要素に分けて、シンコペーションするかしないかの組み合わせでリズムの過激さをコントロールする感覚を持つとよいでしょう。例えば上の「Where Are Ü Now」では、ベースが複雑な代わりにドラムやボーカルのリズムはかなり平坦なものに抑えることで、幾らかポップで聴きやすい方向に整えています。
三連符
リズムパターンに関してもうひとつ欠かせないのが、グリッドを3分割するリズムです。ここまで1拍を2, 4, 8…とひたすら2分割していくグリッドを基本に話を進めてきましたが、一方で3分割を最小単位とするスタイルも普通に存在します。

リズムの理論①では基本のビートとして1小節にハットを8回刻む「8ビート」と16回の「16ビート」を紹介しました。3分割を採用した場合には、刻めるハットの数は12回や24回となるわけですね。

3分割された音符は【三連符】と呼ばれます。
三連ラップ
三連のリズムは特に昨今のラップでは基礎技法のひとつとして馴染み深いものになっています。
Kendrick Lamarの「United in Grief」では、ドラムが入る前の冒頭パートのラップで「タカタ・タカタ・タカタ」という規則的な三連のフロウが展開されます。ちなみにその後のドラムは先ほど紹介した「3-3-2」のアクセントを基調にしたリズムになっていますね。
シャッフル
またこの「タカタ・タカタ」という三連の真ん中の音を抜くと、「タッカ・タッカ」というリズムになります。

このリズムスタイルは、人間がスキップした時のリズムと似ているからか、飛び跳ねるような特有の軽快さがあります。
8ビートのシャッフル
面白いのは、中を抜いたことで結局ハットの打数が「8」や「16」に戻っていることです。

それゆえこのリズムは「3分割グリッドの中抜き」という見方以外に、通常の8ビートや16ビートが変形したものという見方もできます。
こちらは実際に、通常の8ビートを少しずつ「3分割グリッドの中抜き」へ変化させていったものです。具体的には「タカタカ」という偶数分割の「カ」の方をタメる(遅らせる)ことでどんどん「タッカタッカ」に近づけています。

このように、2:1の比、またはそれに近似した比率で分割されたグリッドに基づくリズムを【シャッフル】、ないし【スウィング】といいます。
シャッフル系のリズムはテンポの速いものから遅いものまで様々な形で偏在していて、ポップ、ロックやジャズのほか日本の伝統的な音楽でも用いられています。
それぞれテイストは異なりますが、「タッカタッカ」という跳ねたリズムが根底にある点では共通しているんですね。
ただこれらの“跳ね方”には、跳ねの程度や頻度、アクセントの付け方といった細部に違いがあります。単に曲ごとの意向の差というのもあるし、ジャンルごとの傾向や演奏者のクセや嗜好もあって、ここはかなり奥深さのあるところです。
16ビートのシャッフル
同様にして、16ビートの場合でもやはり2:1かそれに近似した比率で分割されたグリッドを基本とすることで、跳ねたようなフィールが得られます。
前半がシャッフルなしの通常ビート、後半が完全な2:1比率のシャッフルビートです。刻みが細かいぶん差が分かりにくいと思いますが、ハイハットに注目すると「タカタカ」と「タッカタッカ」の違いが見えてきやすいかと思います。

16分のシャッフルによって打点がずれるのは「16分裏」ですので、シャッフル感が出るのは当然ながら16分裏を含むフレーズを弾いた時だけです。
したがって、例えばメロディやハットは8分のリズムしか使わずに、キックだけが16分裏を打ってシャッフルを表現する……といった具合でさりげない使い方もしやすいのが良いところ。16分のシャッフルは特にオールドスクールなヒップホップのトラックなどでかなり頻繁に使用されます。
こういった感じのゆっくりめのBPMで、特にキックの16分シャッフルが特徴的です。またラップを載せるという観点で見ると、シャッフルは3分割グリッドが基盤にあるため、先ほど見たような三連符のフロウを乗せやすいという特性もあります。
ヒップホップ以外でもR&Bやファンクなど幅広いジャンルで使用されるほか、ジャンルのクロスオーバーが進んだ昨今では、グリッチホップやエレクトロスウィングといった電子音楽の界隈でも活用例が目立ちます。
こんな具合です。シャッフルはカッチリとした偶数等分割のグリッドから解放されて任意の“揺れ”を持ち込める点において、非機械的な人間味のようなものを感じさせます。それをあえて打ち込み音楽でやるのが面白いところですね。
シャッフルの程度は、楽器間で異なるものをあえて混在させることも考えられます。ドラムだけシャッフルするとか、メロディは少し弱めにシャッフルするとか、そういった配分と調整によりさらに微細なニュアンスを表現することができます。
まとめ
「アクセント」や「グリッド分割」のような基礎的な観点から少し工夫を加えるだけで、曲をグッと印象深くするようなリズムを生み出せることが分かりました。
曲を聴く際にも、各楽器の表/裏のアクセントの配分に着目してみたり、シャッフルしている楽器がないか気にしてみると、得られる情報の解像度が上がるはずです。
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著者プロフィール
吉松悠太(Yuta Yoshimatsu)
サウンド・GUIデザイナー/プログラマー、ピクセルアーティスト、音楽理論家。慶應義塾大学SFC卒業。在学中に音楽理論の情報サイト「SONIQA」を開設。2018年に「SoundQuest」としてリニューアルし、ポピュラー音楽のための新しい理論体系「自由派音楽理論」を提唱する。またPlugmon名義でソフトウェアシンセのカスタムGUIやウェイブテーブル、サウンドライブラリをリリースしている。2021年にはu-he Hive 2の公式代替スキンを担当。Soundmain Blogでは連載「UI/UXから学ぶDAW論」も執筆。
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