
てれかす インタビュー 「VRChatで音楽活動」ってどういうこと? コラボ・セッション・CD販売…広がる可能性を訊く
クラブミュージックを中心に、音楽とバーチャル文化の関わりを紐解く連載「バーチャル音楽シーンの歩き方」。シーンの中で実際にトラックメイカーとして活躍するプレイヤーにインタビューし、バーチャル世界の魅力や、そこに紐付いたサウンドメイクのこだわりを解き明かしていく。
第3回インタビュイーは、VRChatを拠点に音楽活動を展開するてれかす。異なる種類の声を使い分けた独自の世界観と、VRChatを舞台に作り上げられたMVが特徴的なアーティストだ。「ふんわりディスコード」や「ポピ横の狂人」といった人気曲はどのようにして生まれたのか。VRChatという場所ならではの音楽活動の面白さについて、制作面だけでなく、出会った人とのセッションや作品の流通など、様々な角度から話を聞くことができた。
二つの声=人格を使い分ける
初めに自分で音楽を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
学生時代にバンドでギターを弾いていたんですが、それは人の曲をコピーするくらいの活動で。オリジナルの曲を作ろうと思ったのは、Future Bassやヒップホップを友達に教えてもらったことが大きなきっかけでした。そういった音楽性は生で演奏というイメージがなかったので、ギターを弾くのとは全く違う体験として、どうせだったらDTMを勉強して、一から作ってみたいなと。
リスナーとしても、もともとはバンドミュージックが好きだったんですか?
ポストロックやマスロックと言われるジャンルが好きでした。大学の時にコピーしていたバンドもほとんどそうで、American Footballとか、《BAHAMAS FEST》(マスフェス)に出ていたcetowとかAGATHAとかのコピーをやっていましたね。
そこからDTMの機材を揃えて?
大学に受かった時に親にボーカロイドを買ってもらってはいたんですけど、サークルとか就活が忙しくてずっと触らずにいたんです。それを就職した後に思い出して触り始めました。
マスロックってテクニカルさを競うイメージがあるんですが、DTMを始める際に「ギターでできていたはずのことができない!」みたいな葛藤はありませんでしたか。
確かに所属していたサークルには「早弾きが一番できるやつが一番偉い」みたいな風潮があったんですが、音楽って別にそれだけじゃないよな、っていう気持ちはずっとあって。なので今も「自分が作る音楽ですごい曲を見せてやろう」みたいな気持ちはないです。
大学の時と作曲を始めてからで、聞くアーティストに変化はありましたか?
打ち込みっぽい音楽というか、ダンスミュージックとか、ボカロとかテクノとかを聞くようになりました。それがいいことなのかはわからないですけど、変わったと思います。
「てれかす」としての活動が始まったのはいつからなんですか?
2020年の7月ぐらいにVRchatを始めたんです。その前から一応「てれかす」という名前で音楽はやっていたので、作った曲はほとんどYouTubeにあって、一番古い投稿だと……(スマホで自分のチャンネルを見る)2020年の4月に投稿してますね。もともと今のチャンネルはゲーム実況用のアカウントだったので、そこまで音楽をやるぞっていう感じではなかったんですけど。
「てれかす」として音楽をやっていくステージは、最初からVRChatだったんですか。
そうですね。ただ、成り行きで始まった部分も大きいです。作曲をする時は「こういうテーマでを書こう」とか決めるんじゃなくて、トラックを先に作ってから、 歌詞を適当に入れていくんですけど、初めてVRChatの歌詞を書いた時――「ポピ横の狂人」という曲なんですが――に「君」という言葉が自然に出てきたりして、ちょっと違う感覚があって面白いなと思ったんです。そのあと会社を休職しちゃって、生活の中心がVRChatになって。人間関係もその中だけになったので、結果的にあまりそれ以外の歌い方を知らないみたいなところはありますね。
てれかすさんがVRChatで活動を始めた時にすでに先駆者はいたんですか?
そうですね。AMOKAさんとか、かなりたくさんいました。そもそも自分がVRChatで特段うまくやっているとは思っていなくて。たまたま歌詞をVRChatの人に聞いてもらいたいから、それ自体がテーマになっているというだけで、Open Mic Bar -Spot Light Talks-(通称SLT)というセッション系のイベントをVRChat内でやっている人たちだったり、もともとクラブで活動してた人のほうがVRChatでもうまくやっている印象は強いです。
VRChatに限らずアーティストで、影響を受けた人はいますか?
ひがしやしきさんというラッパーの人がいて、初めて聞いた時に、「自分が思ったことを歌っていいんだ」という衝撃を受けました。オタクとしての自分みたいなものをそのまま出すみたいな作風の人で、2次元美少女のことに対するストレートな愛情みたいなものを曲にしていたりするんですけど、それを通して人の内面の深いところまで降りていっているようなところがあるんです。それまで、本当に音楽に歌詞というものが付いていること自体の意味がわからなくて、それこそインストばっかり聞いてたんですけど、ひがしやしきさんの曲を聞いてからは歌詞に対する意識が変わりました。
なるほど。その上で、ボーカロイドと自分の声を使い分けて表現しているのはかなり特徴的だなと思うんですけど、あれにはどういった狙いがあるんでしょうか?
二つの人格を使い分けているイメージです。ちなみに、どちらの声が「てれかす」で、どちらの声が別人格で、といった解釈は聞く人に委ねているつもりです。
VRChatは、「人格が二つあると思ったら、ひとつだったじゃん」という気づきが生じるところがいいところだと思っていて。どういうことかというと……VRChatの世界に新しく入ると、全く違う世界に入るわけだから、自分が生まれ変わったように感じて素直になれるんですよ。何気ない会話をしているだけでも感動できちゃうし、「このやり取りってすごい歌詞っぽいな」とか、そんな経験をたくさんしたことで、曲もいっぱい書けるようになりました。その上で最近は、現実世界でも同じことが起きるんだなって気づいたりもして。
ただ最初にボーカロイドを使おうと思った理由としては、自分は歌がめちゃくちゃ下手なので、代わりに歌ってもらいたかったというのが大きいです。声の問題以上に歌の問題があったので、ボイチェンを使って「バ美肉」的なことをする選択肢もなかったですね。あと、アバターは自分がかわいいと思ってキャラメイクした、普段からVRChat内で使っているものなので、友達に歌ってもらうというのも「ないな」と。
その後で、オートチューンをかけたラップだったら自分の歌でもいけるかな、Cメロとかに入れたらむしろかっこいいんじゃないかな、みたいに思い直して、今の形になった感じです。
VRChatのよさは「そこに人がいる」こと
約2年ほどVRChatで音楽活動をされていると思いますが、楽曲自体の変化はありますか?
VRChatで音楽を始めて、自分の音楽を聞いてくれる人が目の前にいるということが分かったので、 キャッチーさというか、伝わりやすさを重視して作るようになりました。もっと言えばあざとくなったというか、「これを言ったらウケるんじゃないか」みたいな施策が増えたかもしれないです。
そういったスタンスはずっと継続していきたいと思いますか?
いや、最近はむしろそういうのからどうにかして逃れたいと思っていて。人生を通してこういう音楽をやりたい、みたいなものがあるかと言えばそうではないんですけどね。根を詰めるのもそれはそれで苦しいということもわかったので、「面白そうなことはやる」みたいなスタンスでやっていこうと思ってます。
改めて、VRChatで音楽をやる良さって何だと思いますか?
Magurojuiceさんという人がいるんですが、その人はVRChat内に自分のステージを作って、そこのBGMも自分で作っているんです。一年くらい僕も遊ばせてもらって、ある時そのBGMに歌詞をつけて楽曲としてリリースしたということがあったんですが、それは今までに聞いたことのない音楽の聞き方というか触れ方だなと思いましたね。
【雲海区(Unkai Section)】
— Magurojuice (@magurojuice) September 5, 2020
自作worldをコミュニティ・ラボに上げました。雲の上に突き出た都市の小区画をイメージしています。集まって話せる所をいくつか作り、観光と交流を両立できる空間にしました。BGMも自作なのでよければ聴いていってね。#VRChat #VRChat_world紹介 #VRChatワールド紹介 pic.twitter.com/8THhKorptf

あとすごく感動したのは、CD屋さんみたいなものをVRChat内でやっている人がいて、自分の曲を(バーチャルな)CDとしてお店に置いてくれたことがあったんですね。自分の音楽がVRChatの中でどんな風に人と関わるのかをこの目で見ることができるのは、面白いなと思いました。

曲を聞くこと自体はYouTubeでもできるけど、「もの」としてそこに置いてあることが大事で、クリエイターにとっても買ってくれる人の存在がダイレクトにわかるという体験価値があるんですね。
そうですね。そういうのがVRChatで音楽をやる上で一番いいところだと思います。
VRChatのよさを一言でいうと、「そこに人がいる」ことに尽きると思うんです。初めてVRChatに行った時に、アバターに「DTM友達募集中」って札をつけて歩き回っていたんですけど、実際に友達がいっぱいできたし、 今はVRChat内にDTMerの集まるBarもあって、夜な夜な覚えたこととかを教え合ってるんですよね。
あとは、アーティストとそうじゃない自分を切り離せるのもVRchatの良さだと思います。ずっと「アーティストとしての自分」でいなくてもいいのは助かります。
ただ、ステージに立つようなことがなくても、友達が曲を出すたびに聞いてくれて、応援してるよみたいなことをダイレクトに言ってくれるので、嬉しい反面、プレッシャーにもなります(笑)。
常に作品に対しての反響がダイレクトに返ってくる環境なんですね。
そうですね。なので矛盾するように聞こえるかもしれませんが、自分がアーティストとしてどうあるべきかを常に問われるみたいな怖さもあります。
VRChat内でセッションも! 広がる音楽の可能性
最初にDTMと向かいあった時に、打ち込みから始めたのか、それとも、サンプルを並べていくところから始めたのかどちらだったんですか?
Spliceで落としたサンプルパックとかを使って、あとはキーボードを弾いて。今もそうなんですけど、トランスポーズ機能にはすごく頼っています。とりあえず白鍵だけ弾いたら、曲っぽくなるじゃないですか。その場で演奏するのと違って何回でも録り直せるし、いくつでもフレーズを重ねられるから面白いけど、やりすぎちゃうこともあるなとは思っています。
今の音楽制作で使っている環境を教えてください。
パソコンはWindows、ソフトはAbleton Live 11で、MIDIキーボードは49のM-AUDIOを使っています。トランスポーズ機能がついていて、白鍵だけでいろんな曲が弾けるので気に入っています。
制作環境は、2年の間で変わりましたか?
「ふんわりディスコード」からはAbletonで、その前まではFL-Studioを使っていました。AbletonにはAbletonでしか出せない変な音がたくさんあって、重宝しています。プラグインもNexusとかSylenth1とかSerumとか、サイトでおすすめされたものはひと通り買ったんですけど、結局Abletonに付属されたもので大丈夫だなと。あとはSpliceのサンプルがあれば十分だなって思います。
なるほど。デモから完成に至るまでの流れを教えてほしいです。
曲によって全然違うんですけど、大体はサビっぽいところを作って、次にAメロを作って、気が向いたらBメロを作って、あとは家の中で踊りながら歌詞を考えてます(笑)。
メロディを考えるときは、急に頭にいいメロディが浮かんだりして、衝動的に作り始めたりするんですか?
制作中の曲にフレーズをひとつ入れて、あとになって「このフレーズめちゃめちゃ好きだから、別の曲にしちゃおう」みたいなことはあります。ただ、よくこういうインタビューで出てくる、「生活の中でメロディが浮かぶ」という経験はないです。それって、メロディとコードが頭の中で一致している人じゃないとできないと思うんですよね。相当すごい技術だと思います。
VRChat内で、DTMや作曲について情報共有したりもするんですか?
Satellite Pluginsというソフトを使って、VRChatで友達とか会ったことない人と曲を作ったりしています。DAWの画面を共有できるので、MIDIデータや録音したwavファイルをやりとりする際に便利です。シェルさんと作った「君がいなくなっても」は、Satellite Pluginsに加えてSYNCROOMというソフトを使って作りました。これを使うと最小限の遅延で音声をやり取りできるので、マスタートラックに常に刺しておいて、曲全体を一緒に聴くときに使います。部屋でギターを録って、それを送ってもらって、僕がリバーブをかける、みたいなことも全部リアルタイムでできるので、使ってみるとかなり面白いと思います。
VRChat内で一緒に作曲をする友達は、先ほど話していたDTMを語るBarなどで見つけているんですか?
僕はそうではなくて、もともと曲を聴いてくれたのをきっかけに会いましょうっていう流れになることが多いです。最初から一緒に音楽を作ろうみたいなノリで会うんじゃなくて、一緒にお酒飲んだり、話していているうちに、1ヶ月後ぐらいにセッションすることになって、それが曲になっていた……みたいなことが多いです。
今後やりたいことや挑戦してみたいことはありますか?
楽曲を作ってアルバムを出すとか、「このライブに出演したいな」みたいなことは今のところ考えていないんです。今はインターネット上のプラットフォームに楽曲を投稿する以外の音楽をやりたいという気持ちが強いです。最近はセッションに興味が出てきて、せっかくVRChatにいるんだから、いろんな人と一緒に演奏したいなっていう気持ちがありますね。
確かに、VRChatもインターネットを基盤にしたテクノロジーではありますが、不特定多数の人に届ける、という形ではない親密な空間が作れるということが今日のお話を聞いて改めてわかりました。
そうですね。セッションというのもお客さんがいることを想定はしていなくて、友達と二人でゲームをやるみたいな感覚で、一緒に演奏しようぜみたいな流れで始めるイメージです。VRChatで出会った人と、SYNCROOMなどを使って、一緒にジャズのセッションをしたいです。
ジャズですか。確かに、最初はポストロックやマスロックを演奏するバンド活動からだったんですもんね。
そうですね。音楽的にやりたいことはいっぱいあるんですけど、技術的にできないことがまだまだ多くて。これからもっと勉強していきたいです。
取材・文:森山ド・ロ
てれかす プロフィール
Youtube
https://www.youtube.com/channel/UCnb_vyxyfscZv0N_p2HzANQ