2022.09.30

ワーナーミュージックがSoundCloudの“ユーザー主体”のロイヤリティ支払いモデルを採用。メジャーレーベルとしては初の試み

音楽ストリーミングサービスの普及により、音楽業界の世界的な収益が増加傾向にあることはこれまでにもたびたび報じられてきました。しかし、業界自体が成長しているにもかかわらず、自分たちがストリーミングから適正な収益を得られていないと主張するアーティストは少なくありません。

そのような事態を受けて、昨年、イギリスでは、イギリス下院デジタル・文化・メディア・スポーツ特別委員会(DCMS委員会)によって、政府に提出するストリーミングに関する提言を盛り込んだ報告書が公開されるなど、現在は、欧米を中心にストリーミングからアーティストが適正な収益を得るための議論も進んでいます。

そのような状況の中、ストリーミングの収益に関する問題解決の糸口になる可能性があるとして、注目されているのが「UCPSモデル(ユーザー主体支払方式)」と呼ばれる収益分配システムです。

UCPSモデルは、現在のストリーミングサービスの収益分配システムにおいて、主流となっている「プロラタモデル(比例按分方式)」とは異なり、1人のユーザーが支払ったサブスクリプション料金をそのユーザーが聴いたアーティストにだけ配分するという収益分配システム。

このシステムについては、主要音楽ストリーミングサービスの中ではDezeerが提唱するほか、TIDALも同様の「Fan-Centered Royalties」モデルを今年1月から導入していますが、他の競合サービスに先駆けて、いち早くこのシステムを導入したのがSoundCloudです。

SoundCloudは、昨年から“Fan-Powered Royalties(FPR)”と呼ぶ、UCPSモデルを導入しており、現在までにSoundCloudを通じて直接収益を得ている約10万人のインディペンデントアーティストを対象に同モデルを提供しています。

そんな中、最近、3大メジャーレーベルのひとつであるワーナーミュージック・グループが、SoundCloudとグローバルパートナーシップを締結。メジャーレーベルとしては初となるFPRの導入を決定しました。これにより今後、ワーナーミュージック・グループ所属のアーティストがSoundCloudから受け取るストリーミングのロイヤリティは、FPRで算出されることになります。

SoundCloudは、ワーナーミュージック・グループのFPR導入について、「FPRは、インディーズから国際的なスーパースターまで、すべてのアーティストがファンから直接収入を得るための公平で透明な方法を提供する」との声明を発表。SoundCloudの社長であるEliah Seton氏も以下のように述べています。

「ワーナーミュージック・グループは、今日の最大のスーパースターの数人を発掘し、彼らのファンコミュニティを成長させ、サポートする技術やモデルに投資することによって、彼らが長期的なキャリアを築くのを助けることで知られています。そのことからWMGはSoundCloudにとって理想的なパートナーであり、私たちはゲームを変えるファン主導の製品を彼らの素晴らしいアーティストリストに提供することに興奮しています。SoundCloudは、音楽を愛するファンのコミュニティで知られており、このパートナーシップは、ファンの力を借りて、アーティスト中心のビジネスを行うという当社のコミットメントに合致しています」

また、ワーナーミュージック・グループのCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)兼事業開発担当EVPであるOana Ruxandra氏は以下のように述べています。

「音楽業界の進化は、創造、消費、マネタイズの新しい方法をもたらしています。エコシステムの拡大に伴い、ワーナーミュージック・グループは、アーティストとそのコミュニティの機会を最大化するために、新しい経済モデルの推進と実験に重点を置いています。SoundCloudは、アーティストとファンをつなぐ素晴らしいパートナーです。私たちの関係性を深めることで、双方の将来を積極的に構築することができます」

ちなみにFPRの実績に関して、SoundCloudは、昨年同モデルを採用したPortisheadの楽曲がプロラタモデルで得られる収益の6倍以上を獲得したことを公表しており、その際に「このモデルは期待どおりにトラッキングされており、Portisheadの事例は、このモデルにとって、ファンのエンゲージメントが意味のある収益をもたらしていることを強く証明している」と述べています。しかし、メジャーレーベルや独立系レーベルと契約しているアーティストに関しては、すでに既存のライセンス契約の対象となっているため、その時点ではこのモデルの影響に関するデータはほとんど存在しませんでした。

それだけに今回のワーナーミュージック・グループによるFPR採用がどのような結果をもたらすことになるのか、今後、アーティストの間でも注目が集まることになりそうです。

文:Jun Fukunaga

【参考サイト】

SoundCloud and Warner Music Group Announce Global Licensing Deal Bringing Fan-Powered Royalties to Major Label Artists | SoundCloud Newsroom
https://press.soundcloud.com/216750-soundcloud-and-warner-music-group-announce-global-licensing-deal-bringing-fan-powered-royalties-to-major-label-artists