2022.08.09

アーティストにどう影響? 識者が語る「音楽業界におけるメタバースの現在地とその未来」

音楽マーケティングコンサルティング会社・MusicAllyが今年6月に開催したSandbox Summit Web3 Specialで、メタバースにおける音楽に焦点を当てたパネルディスカッションが行われました。

このパネルディスカッションには、バーチャル音楽フェスの開催にも実績のあるVRプラットフォーム・Decentralandの音楽イベントプロデューサーIara Dias氏や、ヴァーチャルスペースの制作と運営に携わるRistbandのチーフ・クリエイティブ・オフィサーでミュージシャンでもあるRoman Rappak氏らが登壇。その可能性について、意見を交わしました。

Rappak氏は「メタバースにおける音楽」というトピックについて、

「“ラップトップでトラヴィス・スコットのアバターの近くに立つ子供”というイメージから脱却し、現実世界で起きていることを世界中の何十億という人々に拡散できるようなものにしたい」

と、抱負を語りました。またメタバースにおける音楽の面白さは、音楽業界とゲーム業界をより強く結びつけられることだとも指摘しています。

Ristbandのコンセプト動画

通常のコンサートやライブ配信にMR(Mixed Reality)の演出を施すプラットフォームをアーティスト向けに提供するVoltaのCEOのAlex Kane氏は、ライブ音楽に対する人々の期待の中心が「音楽の素晴らしさ」から「音楽周辺のスペクタクル」へと変化してきたという歴史的な背景を説明。Kane氏の持論によると、次の段階は「独創的でインタラクティブな、ある程度ジェネレーティブ(生成的な)な体験」であり、このフェーズはテック企業だけでなく、アーティストがリードすることになると予想しています。

このことについてKane氏は、以下のように説明しています。

「多くのアーティストがDaft Punkになりたがっていますが、今ならなれるということにみんな気づいていません。 新しいツールは、そこに到達しつつあります。 Voltaもそうですし、Ristbandもそうですが、ペルソナを作って、その世界の中に自分を置いて、本当にそのペルソナになりきって、自分が演じたいと思う世界に生きることができるようになりつつあるのです」

Voltaのコンセプト動画

一方でメタバース系スタートアップ向けのベンチャーキャピタルのFOV VenturesのDave Haynes氏は、「今、20年サイクルのうち、おそらく5年目か6年目にある。まだ解明されていないことがたくさんあるのではないか」と、メタバースにおける音楽はまだ初期段階にあると指摘しています。

音楽ライセンス供与など、世界のデジタル音楽事情に対応するためのアドバイザリーおよびコンサルティングサービスを提供するCrossBorderWorksのVickie Nauman氏は、ゲーム会社と音楽業界の交流について、VRゲーム「Beat Saber」の黎明期にレーベルやアーティストを説得し、音楽のライセンスを獲得した経験について語りました。

「権利者というのは、リスクを避ける傾向があります。アーティストや作家については、あらゆるチャンスとリスクを取ってあげるのに、ライセンス契約にはそれほど多くのチャンスを与えないのです」

「ゲームにおけるマネタイズの手法から生まれたものというのは確かにあって、それらはメタバースにおいて本当に強力に効くものではないかと思います。いくつかのゲームのエンジン、エンゲージメントに関するゲームの方法論、そしてそれをアーティスト中心の体験と組み合わせることができる。人々はこのような体験を渇望しているはずです」

またアーティストがメタバースなどバーチャルを通じて音楽を届けることについては、以下のように語っています。

「現在アーティストには世界中にファンがいるため、たとえCovid-19によるキャンセルもなく、50都市でツアーを行えたとしても、ファンの内のごく一部にしか届かないことになっています。メタバースや様々な形やサイズのヴァーチャル体験は、世界中のオーディエンスにサービスを提供することと、意味のある親密な方法でそれを行うことの間にあるギャップを埋めることができると思うのです」

また、「アーティストやレーベルがメタバースで何をやっているのか、その可能性はどこにあるのか?」という話題では、Rappak氏が、FortniteやRobloxのようなプラットフォームで何百万人もの人々にイベントを開催するメジャーアーティストという大規模な例以外にも、議論を広げたいとの考えを示しました。

「私は、ソーシャルメディアキャンペーンと同じように考える方が良いということに気づきました。ユーザーが何を求めているのか、何が効果的で、何が効果的でないのかを理解しながら道を切り開いていく……最初から何か大きな収穫があると考えるよりも、この新しいメディアの使い方をできるだけ早く学ぶにはどうしたらいいか考えることが一番なのです」

「今後どのような新機能や音楽体験が欲しいか?」という質問に対しては、アーティストが物理的な世界では不可能なことを試みる「クレイジー・アクティベーション」について話題に。Dias氏はDecentralandの特徴のひとつである、飛行など特定の機能を持つようにコーディングしてイベントで使用できる「スマート・ウェアラブル」を引き合いに出しつつ、

「メタバースがある種のDSP(ストリーミングサービス)として機能し、ユーザーが聴きたい音楽を選択し、自分だけのパーティーを作ったりできるようになるといいですね。その支払いはブロックチェーン上で、権利者に直接行うことができる。私はメタバースでそれを見たいと思いますし、その技術自体は存在します。そのために適切なパートナーと話をすることが問題で、実際、そうしようとしているところです」

と述べました。

Decentraland上で行われたDeadMau5のライブの模様

また、「拡張現実や仮想現実といった次世代ハードウェアが、アーティストに何を可能にするのか?」という質問に対してKane氏は、Voltaのパフォーマンス映像の作成・ストリーミング用ツールですでに行われていることを踏まえて、以下のように述べています。

「論理的には、誰もがみんなARヘッドセットを持つようになれば、(世界観や体験を含む)パフォーマンスが現実空間と重なり、それ自体をダウンロードすることができるようになり、その世界の中を歩き回って楽しむことができるようになります」

最後にRappak氏は、

「我々にとって結局大事なのは、この新しいメディアやこの新しい音楽の表現が、はたしてミュージックビデオや、テレビで見るコンサートのようなレベルで身近なものになっていくのか、です。もちろん、既にとてもエキサイティングなことが起きてはいますが、何度も今日言われたように、実現したいところとはほど遠いところにあります。でも、“何か”は、確実に形になってきているし、始まろうとしているのです」

と、今後の音楽業界でのメタバース活用の可能性について述べました。

現在、NFTやメタバースなどWeb 3に関する最新テクノロジーは音楽シーンにも広がっており、様々ばアーティストがそれらを活用しながら新たな音楽活動の可能性を模索しています。ただ、現状はまだまだ一部の有名アーティストのみが活用している段階であり、一般的な音楽クリエイターにとってはまだあまり身近なものになっていない印象もあります。

しかし、最近の音楽NFT周辺の動きを例に見ても、ブーム的に盛り上がった昨年と比べて、その活用事例の幅は着実に広がっており、それによって、アーティストが抱えるさまざまな課題解決の可能性も示されています。アーティストの皆さんにとっても、こういった動きに注目しておくことは無駄にはならないのではないでしょうか?

文:Jun Fukunaga

【参考サイト】

Music in the metaverse: ‘It’s going to be artist-led’ – Music Ally
https://musically.com/2022/06/30/music-in-the-metaverse-its-going-to-be-artist-led/

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