2022.07.08

ドレイクやビヨンセの影響で90sハウス人気が再燃!? 近年のリバイバルの傾向や制作TIPSをまとめてご紹介

2022年6月17日、人気ラッパーのDrakeが7thアルバム『Honestly, Nevermind』をリリースしました。同作のほとんどの曲でハウスの要素が取り入れられていたことに注目が集まったのは、記憶に新しいところです。

またその翌週にはR&BシンガーのBeyoncéも、90年代のハウスクラシックとして知られるRobin S.の「Show Me Love」をサンプリングした新曲「Break My Soul」をリリースしました。

現在のポップ・シーンを代表するトップアーティストが同じタイミングでハウスを取り入れたことに衝撃を受けた音楽ファンは多いと思いますが、海外メディアの中にはそのアプローチを「90sハウス・リバイバル」的なものとして捉える向きもあります。今年はすでにフレンチハウスや2000年代のダンスポップ系エレクトロハウスがリバイバルする気配がありましたが、ここにきて新たにクラシックなハウススタイルにも注目が集まっているのです。

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2022年の「90sハウス・リバイバル」は本当か?

Drakeの『Honestly, Nevermind』には、現行のハウスシーンで活躍するプロデューサーが数多く参加しています。今年のグラミー賞で「ベスト・ダンス / エレクトロニック・アルバム賞」を受賞した南アフリカのハウスプロデューサーBlack Coffeeがアルバムのエグゼクティヴプロデューサーの1人として参加しているほか、テックハウスプロデューサーのGordo(EDM系トラップのプロデューサーのCarnageの別名義)、ベルリンのハウス/テクノ系レーベル〈Keinemusik〉の中核を担う&MEとRampa、Axwellの秘蔵っ子として知られるKlahrなどが名を連ねています。

個人的に同作に関しては、「DrakeがBlack Coffeeらに代表されるアフリカのテイストを取り入れたハウスに接近した作品」という印象が強いのですが、海外メディアが指摘する90sハウス的アプローチということを踏まえて聞けば、&MEとRampaが手がけたピアノハウス系の「A Keeper」はその系譜の曲だと言えそうです。

一方、Beyoncéの「Break My Soul」は、先述のとおり、“THE 90sハウス”と言える「Show Me Love」をサンプリングした4つ打ちのハウス系曲になっていることから、こちらは明確に90sハウスの影響を感じます。

ちなみに「Show Me Love」は、ハウスのサブジャンルでは「ディーヴァ・ハウス(Diva House)」と呼ばれるスタイルの曲。ディーヴァ・ハウスでは他にもCeCe Peniston「Finally」やCrystal Waters「Gypsy Woman (She’s Homeless)」が代表的な曲として知られています。

またこのジャンルでは、90年代に活躍し、マドンナの楽曲も手がけたDavid Moralesやシカゴハウスのパイオニアとして知られるFrankie Knucklesなどもシーンのパイオニア的プロデューサーに数えられています。

現代イギリスのカルチャーについて網羅した書籍『The Encyclopedia of Contemporary British Culture』によると、ディーヴァ・ハウスとして定義される音楽の特徴は、以下の3つです。

・軸となるのが女性ボーカル
・ブレイクダウンやピアノ・スタブ
・4つ打ちのリズム

ディーヴァ・ハウスは別名「ハンドバッグハウス(もしくはハンドバッグ)」とも呼ばれることがありますが、「ハンドバッグ」という名称は同書籍によると、「同ジャンルを多少軽視した考えから誕生した言葉」です。このジャンルが広がり出した当時の硬派なクラバーたちは、自分たちのハンドバッグを一箇所に集めておいて、その横で踊り騒いでいるパーティ好きの女性グループの様子を侮蔑的な意味を込めてそう呼んでおり、それが同ジャンル名の由来となったとのこと。しかし、現在ではミソジニー的な蔑称であることから、もっぱら「ディーヴァ・ハウス」という名称が好んで使われています。

またこのジャンルは、元々は90年代にゲイカルチャーがメインストリームのポップカルチャーに進出した際に人気を得たジャンルで、ダンスミュージックの歴史家のBill Brewster氏によると、クラビング(クラブで遊ぶこと)を「『娯楽の主流』に変えた立役者」とのことです。

そんなディーヴァ・ハウスを代表する「Show Me Love」はハウスクラシックとしてだけでなく、音楽クリエイターの間では、サンプリングの大ネタとしてもよく知られています。

ちなみにサンプリングネタのデータベースサイト「Who Sampled」で調べてみると、これまでに39曲でサンプリング(あくまで同サイト上でカウントされている数字です)されており、先述の「Break My Soul」以外にハイパーポップ系アーティストのCharli XCX「Used to Know Me」をはじめ、ラテンポップのスターとして知られる Daddy Yankee「Pasatiempo」など、今年リリースされた曲だけを見ても実に4曲でサンプリングされているというから驚きです。

このことを考えると、先述の海外メディアによる、現在のメインストリームのポップスシーンにおけるトレンド要素としての「90sハウス・リバイバル」という指摘はあながち間違いではないのかもしれません。

ベースミュージック、ローファイ……近年の90sハウスと他ジャンルの接合

なおここ10年というスパンで見れば、「90sハウス・リバイバル」がハウスの歴史において大きなトピックのひとつだったことは確かです。

例えば2010年代前半には、90sハウスの要素を取り入れつつも、ベーシーなハウスを通過したサウンドで人気を得たDisclosureのほか、SkreamやMidland、IkonikaなどダブステップやUKファンキーといったベースミュージック系のプロデューサーたちがハウスに接近しています。またこの時期には、UKのレーベル〈Aus Music〉などで90年代のディープハウスの要素を感じさせるベースミュージックを通過したハウスもリリースされるようになりました。

他にもカナダでは、伝説的ビートメイカーのJ.Dillaの影響を受けたKAYTRANADAがハウス要素を取り入れたスタイルで人気になったほか、90年代にリリースした音楽がこの時期に再評価されたことで日本のハウスオリジネーターの寺田創一が世界的にブレイクしました。

2010年代半ばになると、90年代ハウス的な質感やサンプリング手法を取り入れた若い世代のプロデューサーたちによる「ローファイハウス」が人気になりました。このシーンからは90年代のポップアイコンの1人である俳優のウィノナ・ライダーの声をサンプリングしたDJ Boringの「Winona」や90年代ハウスのRalphi Rosario「An Instrumental Need」をサンプリングしたX-Coast「Mango Bay」などのクラブヒットが生まれています。

さらに2010年代後半のメインストリームのポップスシーンでは、DiploとMark RonsonのユニットSilk City「Electricity」やCalvin Harris「One Kiss」といった”新世代のディーヴァ・ハウス”がヒットを記録。

また、この2曲でボーカルを務めたポップスターのDua Lipaが、2020年に80年代から2000年代までのダンスミュージックを取り入れたクラブリミックスアルバム『Club Future Nostalgia』を人気ハウスDJ/プロデューサーのThe Blessed Madonnaを迎えてリリースするなど、メインストリームのポップスシーンでもここ数年の間に90年代ハウスを含むハウスリバイバルムードが高まっていました。

また近年は、本来のハウスのコミュニティであった黒人やラテン系、LGBTQ+のコミュニティからもOcto OctaやEris Drew、TSHAなど、新たなスターが生まれ、その活躍の場も広がっています。

このような動きを経た上で、現行ポップスシーンのトップアーティスト2組がハウスに接近したと考えると非常に興味深いことですね。音楽クリエイター的にも今後、この流れが音楽シーンのトレンドとして、さらに加速するかどうかは気になるところでしょう。

90sハウス風トラックの制作TIPSをご紹介

最後に90sハウス風のトラックを制作する上で参考になるTIPS動画をいくつかご紹介したいと思います。

How to Make Old School 90s House from Scratch (Samples Included)

ドラムの打ち込みからベースライン、ボーカルサンプルの活用方法まで、オールドスクールな90sハウス系トラックの作り方をまるっと解説する動画です。この動画では「Show Me Love」などこの頃のハウスの定番サウンドとして知られるKorg M1(「Organ2」というプリセットが有名)を使って作るコード進行の作成方法なども紹介されています。

5 Deep House Basses You Need to Know [Serum Sound Design Tutorial]

ハウスミュージックに欠かせない要素であるボトムラインを支えるベース音色の作り方を紹介する動画です。動画は基本的にウェーブテーブルシンセのSERUM向けの内容になっていますが、同様のウェーブテーブルシンセでベース音色を作成する際の参考にもなります。

Some Music Theory for House Producers – Chords

ハウスの定番コード進行の作り方を解説する動画です。特にコード進行を考えるのが苦手という人は必見。ちなみにハウスの伝統的な制作テクニックとして、コードをサンプリングすることで指1本でコードを鳴らすことができる“サンプル・コード”という制作テクニックも、コード進行を作るのが苦手な人におすすめです。

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MAKING A HOUSE BEAT FOR DRAKE’S HONESTLY NEVERMIND ALBUM

本稿でも取り上げたDrakeの最新アルバム『Honestly, Nevermind』に収録されている楽曲風のハウスの作り方を解説する動画です。コード進行からメロディー、ベース、ドラムまでの各フレーズの作り方が解説されているので、『Honestly, Nevermind』系のタイプビートを作りたい人には特におすすめです。

文:Jun Fukunaga

【参考サイト】

Drake’s ‘Honestly, Nevermind’ Review: Now It’s Time to Dance – The New York Times
https://www.nytimes.com/2022/06/19/arts/music/drake-honestly-nevermind-review.html

Beyoncé, Drake and the revival of 90s house music – BBC News
https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-61878412

Samples of Show Me Love (Stonebridge Mix) by Robin S. | WhoSampled
https://www.whosampled.com/Robin-S./Show-Me-Love-(Stonebridge-Mix)/sampled/

How to create a Korg M1-style organ bass sound | MusicRadar
https://www.musicradar.com/tuition/tech/how-to-create-a-korg-m1-style-organ-bass-sound-642650

House Music Guide: A Brief History of House Music by Beatport – 2022
https://www.beatportal.com/features/beatports-definitive-history-of-house-music/