2022.07.06

JASRACがブロックチェーン技術を活用した楽曲情報管理システム「KENDRIX」クローズドβ版をリリース。その仕組みとは?

音楽作品の著作権処理やNFTなどにも関連する最新テクノロジーとして、Soundmain Blogでもたびたび取り上げてきた「ブロックチェーン」という技術。

サーバーに構築したデータベースに各人のコンピュータからアクセスする中央集権型の情報管理をP2P型(※)に置き換えることで、電子取引にかかる時間や仲介手数料などのコストを削減、不正や改竄を制御することも容易になる……というのがその要点ですが、このたびそんなブロックチェーン技術を活用した楽曲情報管理システム「KENDRIX」を日本音楽著作権協会(JASRAC)が発表。プレスリリースを抜粋しつつ、その内容を詳しく見ていきたいと思います。

※P2P:ネットワーク上で機器間が接続・通信する方式の一つで、機能に違いのない端末同士が対等な関係で直に接続し、互いの持つデータや機能を利用しあう方式。ネットワークに接続されたコンピュータがクライアントとサーバに役割を分担している「クライアント-サーバ」方式と異なり、1台のコンピューターがクライアントとサーバ双方の役割を兼ねている。

KENDRIXとは

KENDRIXは「すべての音楽クリエイターが Creation Ecosystem に参画できる世界へ」というコンセプトのもと、音楽クリエイターが安心して楽曲を発表でき、適正な対価還元を受けるための各種手続きのハードルを下げることを目的としたクリエイターDXプラットフォーム。ちなみにKENDRIXという名称は「KENRI(権利)」と「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」のアナグラムとのことです。

KENDRIX開発の背景

ストリーミングサービスの定着に伴い、楽曲制作からマーケティング、ディストリビューションまでを自ら行う個人の音楽クリエイター(DIYクリエイター)が増加しています。しかしこうしたDIYクリエイターの間では「音楽配信などから得られる収益とは別に、著作権管理団体等を通じて著作物使用料の分配を受けられる」ことが認識されていない、という実情があります。

このことは、以前クリエイターにして一般社団法人 日本音楽作家協会(MCA)の代表も務めるエンドウ.さんに取材した際にも話題に上がりましたね。

さらにJASRACの実証実験を通じて、DIYクリエイターには「自身の楽曲の無断利用や、なりすまし公開に対する対抗手段がない」という課題や、「著作物使用料分配の仕組みやJASRACとの管理委託契約・楽曲登録が複雑・煩雑で、既存の著作権管理システムの利用はハードルが高い」という課題も明らかになったとのこと。

これらの課題解決に向けてJASRACは、ブロックチェーン技術を用いた存在証明機能を備え、JASRACを含む音楽関係のさまざまなビジネスパートナーとのデータ連携、各種申請・登録や契約を定型化・簡素化して電子化する楽曲情報管理ツール=KENDRIXの開発に着手。音楽クリエイターの協力を得ながらさらなる実証実験を重ね、このたびのリリースに至ったとのことです。

参考:音楽クリエイターの楽曲管理のデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた実証実験を行いました(JASRACプレスリリース)
https://www.jasrac.or.jp/release/21/05_3.html

KENDRIXの仕組み

音源ファイルなどをKENDRIXに登録すると、以下の情報がブロックチェーンに登録されます(制作途中の音源でも登録が可能です)。

  • 音源ファイルのハッシュ値
  • タイムスタンプ
  • ユーザー情報、タイトルとバージョンの情報(一つの楽曲情報に対し、複数の音源ファイルを登録して、バージョン管理することが可能です。)

これにより、ある音源ファイルを誰がいつの時点で所有していたのか、という事実を客観的に証明することができます。そして、ブロックチェーンに登録された情報を表示する「存在証明ページ」を公開することができます。

動画配信プラットフォームやSNSで楽曲を公開する際に、存在証明ページの公開用URLを添えることで、存在証明を取得している音楽クリエイターであることが第三者に伝わり、不正利用の抑止力となることが期待されます。

KENDRIXの仕組み(イメージ図)

KENDRIXの今後

今後、合計10組程度の音楽クリエイターがテストユーザーとしてクローズドβ版を使用する予定。テストユーザーによるレビューとフィードバックを得て、一般公開に向けて機能の改善・改良を図っていくとのことです。

今回紹介したブロックチェーン技術を活用した存在証明のほかに、eKYCを用いたオンライン完結型の契約機能等を実装し、2022年10月に誰でも無料で使える正式サービスを開始する予定とのことです。

KENDRIX Mediaについて

「すべての音楽クリエイターが Creation Ecosystem に参画できる世界へ」というコンセプトのもと、2022年3月31日にメディア「KENDRIX Media」が公開されました。音楽クリエイターの皆さんに役立つ情報を発信する、Soundmain Blogにとっても身近な領域を扱うメディアです。ぜひチェックしてみてください。

KENDRIX Media
https://kendrixmedia.jp/

Twitter
https://twitter.com/kendrixmedia

文:Soundmain編集部

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