2022.06.24

トラックメイカーのための音楽理論 | 第1回 リズムの理論① BPMと拍の表裏

「音楽理論」と一口に言っても、その中身は実に様々です。例えばオーケストラのクラシック曲を作りたい人と、ジャズのアドリブ演奏をしたい人とでは、学ぶべき内容は全く変わってきます。

彼らはそれぞれに最適化された内容を学んでいます。そうであるならば、トラックメイカーのための音楽理論というのはまた異なる中身になるはずです。

そこでこの連載では、DAWで作曲するトラックメイカーの人たちにとって価値の高い情報だけを抜き出し、コンパクトに音楽理論の基礎を学んでいきます。ですので初回であるこの記事も、「音程の名前」や「五線譜の読み方」ではなく、まずリズムの話から入っていこうと思います。

拍と小節

音楽のリズムの骨組みは、【】という概念から成り立ちます。簡単にいえばこれは、メトロノームや指揮棒、もしくは手拍子や掛け声などで「1,2,3,4」と私たちが一定のリズムで時間をカウントする際の、そのひと刻みひと刻みを指す言葉です。

一定の刻みが音楽における時間の流れの“ものさし”となります。

小節

私たちが拍をカウントするとき、数字が無限に増えてはいきません。典型的には「1,2,3,4」を1ブロックとして、その次はまた「1,2,3,4」と数え直しますよね。その拍のひとまとまりのことを【小節】といいます。DAWでいうと、上部にある数字が小節数を表しています。

Bitwig Studioの場合

定規でミリの刻みが集まってセンチという大きなまとまりになるのと同じように、「拍」の集合体が「小節」です。上の画像でも実際に「1.1」などと小数点で刻みが入っていますね。これは「1小節目の1拍目」といった意味になります。

ダンスミュージックでお馴染みのキックの【4つ打ち】という言葉も、「1小節に4打のキック」という意味から来たものです。

拍子

小節は必ずしも4拍でワンセットとは限らず、「1,2,3」でひとまとまりという場合もある。それらを明示するための言葉が【拍子】です。4拍で1ブロックの曲なら「4拍子」、3拍なら「3拍子」となります。

ポピュラー音楽で圧倒的に主流なのは4拍子ですね。拍子は正式には分数で表されますが、分子の方が1ブロックあたりのカウント数を表しているということを覚えておけばひとまずは十分です。

BPM

DTMをやる人なら【BPM】という言葉には馴染みがあるかと思います。曲のテンポを示す概念ですね。

BPMはBeats Per Minuteの略。「脈拍」を英語でheartbeatというように、beatには元々「拍」という意味があります。つまりBPMとは「1分間に拍がいくつ入るか」という意味の語になります。

「1分間で」という定義ですから、例えば時計の秒針に合わせて「1,2,3,4」を数えたら1分で60カウントとなるので、そのテンポがBPM=60に相当します。

……これだと相当ゆっくりですね。もしこの倍でカウントをとれば、代表的なテンポであるBPM=120となります。

ですから逆にいうと、BPM=120なら2拍でちょうど1秒ということです。メトロノームがなくても、時計の針を見ればBPM=120の速さだけは分かります。

BPMの二重性

拍は我々の体感に依存した概念ですから、リズムによってはBPMの解釈が割れる場合もあります。

この音源はトラップ調のリズムパターンですが、高速なハイハットとスロウなキック・スネアとの差が激しく、カウントの仕方は2種類考えられます。

速いか遅いか、どちらかが正解ということはありません。むしろこのテンポの二重性がトラップビート特有の重厚感と疾走感の混在したムードを生み出しているのだと考えるべきでしょう。

曲中のテンポ倍化/半化

またこれは、2倍の関係にあるBPM同士は境界が曖昧であり、転換や混合がしやすいことも意味します。

※下記の当該箇所から再生されます

banvoxの「Reflection」の2番ドロップでは、ゆっくりなトラップ調のリズムから始まって途中からキックが4つ打ちに変わるのですが、これはBPMを速いほうで解釈した状態での4つ打ちです。そのため体感上のテンポとしては倍速化したに等しく、一気に躍動感が増します。ハットの刻みは変わらないままなので、音楽的な繋がりもスムーズ。テンポの二重性を利用した巧みな設計といえます。

グリッドの分割

そんなわけで「拍」がリズムの基本枠組みとなりますが、しかし当然それよりもっと細かい刻みでリズムを構築することもありますね。

この音源では「4つ打ち」のキックに対してハイハットがその空白を埋めるように配置されています。

結果として1小節は8つのグリッドに分割されました。この時キックが置かれた位置を【表拍】といい、ハットが埋めた隙間の方を【裏拍】といいます。

より細かく言うと、これは8分割における裏の方ということで「8分(ぶ)の裏」などと表現します。そして、8分割を基本単位としたリズムのことを、【8ビート】といいます。

16ビート

さらにその倍の細かさでリズムを刻めば、今度は1小節が16グリッドに分割されますね。

この音源では「8分の裏」で演奏するハイハットに加え、16分割で刻むシェイカーが重なっています。

16分割を基本単位としたリズムは、【16ビート】と呼ばれます。刻みが細かいぶんだけ、軽快さや疾走感を演出するのに適していると言えます。

また“8分”に表裏があったように、16分割も表と裏に分かれ、やはり「16分の裏」などと表現します。

多くのDAWでは画面の隅に「1/8」といった表示がありますが、これは1小節を何分割のグリッドで表示するかを示しています。

Soundmain Studioの場合

ですからグリッドを1/8に設定しそのグリッドに沿ってハットを打てば8ビートに、1/16なら16ビートになるということですね。またトラップやドリルのような近年のジャンルでは、ハットをさらに細かく1/32、1/64等で刻むことも一般化しています。

曲中のビート配分

編曲においては、このビートの分割度によって曲のスピード感をコントロールすることができます。

※下記の当該箇所から再生されます

Skrillexの「Bangarang」のドロップでは、ハットがまず8分裏の刻みから始まります。そして3周目からは16ビートに変化することで、前後半の差別化を図っています。驚くべきことに、ハット以外には大きな変化が一切ありません。ハットの差だけでも、1パートの展開を担うだけの変化となりうるのです。

表裏の配分

また分割度という観点とは別に、拍の表/裏のどちらを強調するかも極めて重要な観点になります。

単純明快なリズムか、複雑で刺激的なリズムか。そのバランスを表裏の配分で調整するようなイメージを持つとわかりやすいかと思います。

上の音源はまずキック、スネアとベースまで打ち込んだものです。キックはひたすら表で重く、対するスネアは「16分裏」と「8分裏」を織りまぜて軽快さを演出しています。EDMの定番リズムのひとつですね。そしてここに加わるハット、ライド、シェイカーといった細かい楽器もまた強い影響力を持ちます。

上2つの音源はどちらもライドが8分で刻んでいますが、1つ目はアクセントが表、2つ目は裏と正反対です。前者はキックと同調することで原始的なノリになり、後者はリズムの重みが分散されて複雑化しました。音楽の方向性というのが、これだけでかなり変わりますね。このように各楽器の演奏の合算でリズムアンサンブルの造形が定まっていくわけです。

実際の楽曲を分析すると、意外とハットを鳴らしていないパートがあったり、逆に2種類のリズムを重ねていたりなど、様々な発見があるはずです。

まとめ

さて、今回紹介した内容のほとんどは当たり前に感じるようなことだったと思います。ただこうして言語化することで音が情報としてずっと扱いやすくなり、結果として記憶や楽曲分析の精度が上がるだけでなく、これがより応用的な理論への足掛かりにもなります。音楽理論は音楽を情報化する“ITツール”なのです。

リズムの理論②へつづく

★本記事中の音源にはSoundmain Storeで販売中の素材が使用されています。使用した素材を収録したパックはこちら!

著者プロフィール

吉松悠太(Yuta Yoshimatsu)
サウンド・GUIデザイナー/プログラマー、ピクセルアーティスト、音楽理論家。慶應義塾大学SFC卒業。在学中に音楽理論の情報サイト「SONIQA」を開設。2018年に「SoundQuest」としてリニューアルし、ポピュラー音楽のための新しい理論体系「自由派音楽理論」を提唱する。またPlugmon名義でソフトウェアシンセのカスタムGUIやウェイブテーブル、サウンドライブラリをリリースしている。2021年にはu-he Hive 2の公式代替スキンを担当。Soundmain Blogでは連載「UI/UXから学ぶDAW論」も執筆。

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