
DJプレイから作曲者への収益配分をNFT技術で実現。仏DJ/プロデューサー・Maelstromの挑戦
昨年初めに起きた世界的なNFTブームを受けて、音楽シーンでもNFTの活用例が増えています。
例えば、音楽シーンにおいてNFT活用の先駆者となった3LAUはデジタルアルバム『Ultraviolet』を販売し、その収益が1160万ドル(約12億8400万円)となるなど、コロナ禍により失われたライブ収入を補う巨額の利益がNFTによって生まれたことが大きな話題になりました。
その後も海外ではCalvin Harris、Disclosure、Aphex Twin、Arca、日本でも坂本龍一氏をはじめ、小室哲哉氏など、有名アーティストがNFTを販売しています。
最近ではアーティスト作品以外にも活用事例が拡大。今年4月にアメリカで開催された有名音楽フェスの「Coachella Valley Music and Arts Festival(コーチェラ)」では、会場内でNFTを無料で入手できたり、FTXと提携し、NFTホルダー専用レーンからの入場が可能になったりするといった入場者限定の特典が用意され、音楽ファンの間で話題になりました。
また、日本でもチケット販売プラットフォームのZAIKOが、アーティストのファンコミュニティの熱量をより高め、潜在的なコアファンを明確化することを目的にサブスク型ファンプラットフォーム「ONEFAN」にNFT会員証をトレードできる機能を搭載しています。
そんな中、DJシーンでも、DJミックスの販売にNFTが活用される事例が見られるようになってきました。
今年3月にフランス人DJ/プロデューサーのMaelstromは、NFTでDJミックスをリリースしています。同DJミックスは、NFT音楽プラットフォームの「Sound.xyz」にて、1エディション/0.1 ETHの価格で合計150エディション分が販売されました。
その販売収益は、DJミックスで楽曲がプレイされた各アーティストに5.71%ずつ分配されることになっており、完売した場合、音源を提供した各プロデューサーに約2000ポンド(約32万円)の収益が分配されることになるといいます(現在は完売しており、Sound.xyz上で再生のみ可能)。
また、販売収益のうち、Maelstromがキュレーション料としてそのうちの15%を得るほか、この企画の実現に協力したDiscord上にある暗号資産(仮想通貨)のクリエイティブ・コミュニティ「FWB(Friends with Benefits)」に5%が分配されます。その全ての収益分配は、ブロックチェーン上で自動的に行われます。
Maelstromは、「DJが自分の曲をプレイしてくれるのは嬉しい」としつつも、「DJでプレイされる音楽を作ったプロデューサーが誰一人として報酬を得られない一方で、誰かが5桁の報酬を得ているのを見ると不思議な感覚を覚える」と述べています。
またDJがクリエイティブな仕事であり、楽曲をキュレーションしプレイするためにはスキルや才能が必要になることに理解を示しつつも、それと同様に「DJプレイのためにはプロデューサーが作った楽曲が必要になる」と述べています。
Maelstromは、「スポットライトが当たるのは99%の確率でDJだ。そこで使われる曲のプロデューサーのことは話題にもならず、彼らにはほとんどお金も入らない」と述べるなど、現在のDJシーンの課題についても言及。また、「コミュニティは、ローカルでもグローバルでも健全でクリエイティブなシーンを存続させるための鍵になる」と述べており、今回のNFT DJミックスがDJとプロデューサーの関係をより相互依存的なものとして見直されるきっかけになることに期待を寄せています。
DJとプロデューサーの収益格差に関しては、コロナ禍をきっかけにクラブシーンでも議論される機会が増えています。
例えば、昨年、Apple MusicはDJミックス音源から、正しくすべての権利者に直接ロイヤリティの支払いができるようにするシステムを開発していますが、このことはDJたちの間で大きな話題になりました。
また、DJの現場から収益をアーティストに公正に還元することを目的に、先月は人気テクノDJ/プロデューサーのDVS1による収益分配サービス「Aslice」のパブリックベータ版が公開されています。
このように大手テック企業に限らず、プロデューサー側からもDJミックスにおける公正な収益分配に関する動きが見られるようになったことは、DJシーンにおいては大きな変化と言えるのではないでしょうか?
実際にNFT DJミックスが今後どのように普及していくかはまだまだ未知数です。しかし、既存の業界の慣習に対して、課題意識を持ったDJやプロデューサーが、課題解決に向けて、NFTのような最新テクノロジーを活用するケースが増えていくことが予想されます。
一般的にこのような取り組みが広がっていくかを含めて、引き続きこのようなDJシーンの動きに注目していきたいところです。
文:Jun Fukunaga
【参考サイト】
Maelstrom – Ensemble Mix
https://www.sound.xyz/maelstrom/ensemble-mix
Maelstrom’s new blockchain DJ mix aims to make royalty payments fairer | DJMag.com
https://djmag.com/tech/maelstroms-new-blockchain-dj-mix-aims-make-royalty-payments-fairer