
ビートメイカーによるコミニュティ運営の可能性:CRAMインタビュー【サウンドパックとヒップホップ 第8回】
Bandcampのサブスクライブ機能を活用してコミュニティを運営するCRAM
前回はサウンドパックを使ったセッションについて紹介した。一人で行う孤独な作業としての側面が強いビートメイクだが、インターネットを上手く使えば世界中とつながることができる。The Kountなどの活動は、一人だけど一人じゃない、コミュニケーションを取りながら制作する新しいビートメイクのあり方を感じさせるものだった。
そして日本でも、コミュニケーションを取りながらユニークな試みを行うビートメイカーがいた。今回はドラムキットの提供のほか、Bandcampのサブスクライブ機能を活用したビートメイカーのコミュニティ運営も行うCRAMにインタビューを行った。

有益な情報だけではなくビートメイカー同士の交流も促進
福岡出身でカナダを経由し、現在は東京を拠点に活動するCRAM。これまでにCDやストリーミングサービスなどでのリリースも行っているが、現在注力しているのはBandcampだ。
膨大な数の作品をリリースしているだけではなくドラムキットも配布・販売し、そしてサブスクライブ機能を使ってビートメイクにまつわる知識やテクニックを話すポッドキャストも配信。サブスクライブ会員限定のDiscordサーバーでの情報共有も行っている。
Bandcampを見ればドラムキットもあるし、サブスクにも入れるし、もちろん僕のビートも聴けるみたいな場所にしたいんです。僕が持っている武器を全部渡すことで、みんなが格好良いビートをいっぱい作れるようになって、その結果、僕もワクワク出来たらいいなと思って始めました。
現在は約70人の会員がいるとのこと。初心者から10年以上ビートを作ってきたベテランまで、幅広いビートメイカーが集まっているという。作風も様々なスタイルの人がいるそうだ。
僕のスキルを学びに来る人は僕の使っているテクニックを持っていない人だと思うので、スタイルは全然違う人が多いような気がします。メンバーの方はみなさん優しいので、僕じゃなくても質問に答えてくれたり、テクニックを投稿してくれたりしています。僕にも学びがありますね。
Discordでは、アカペラやドラムキットなどの情報を共有するチャンネルのほか、コミュニケーションを目的としたチャンネルも作っている。「有益な情報ばかりじゃなくて楽しめるように」という思いからこういったチャンネルを運営しているそうだ。このビートメイクの知識・技術の共有は好評で、情報を受け取ったビートメイカーからメッセージが届くこともあるという。
「(ビートが)良くなりました」とか、「実際にこれをやったらこうなりました」とメッセージをもらったことがありました。あと、ポッドキャストは前半・後半に分けて前半はYouTubeで無料公開しているのですが、「無料分だけでも実になったので、サブスクにも入りました」と言われたこともあります。
情報やテクニックの共有でレベルアップを
今年の1月に始めたばかりだというDiscord運営だが、先日さらに新しい試みとしてコミュニティ内でのビートバトルも行った。
今まで僕が教えるばかりで一方通行だったので、アクティビティ的な感じでメンバー同士の交流とか横のつながりを深めたいと思ってやってみました。審査はみんなでやる形にしています。Discordは投稿に対して絵文字でリアクションを付けられるんですよ。それを活用して、🔥のマークを一点として一人誰かのポストにマークを付ける。それで🔥の数が多かった人が優勝って形にしました。
ビートバトルに参加したビートメイカーが、Discordでそのエントリーしたビートの制作手順やテクニックを共有することもあったそうだ。Bandcampのサブスクライブ機能を軸にこのように様々な取り組みを行うCRAMだが、そのほかにも匿名で質問を送るサービスの「質問箱」も活用して、ビートメイクに関する悩みに真摯に答えている。そして、その質問箱からポッドキャストの着想を得ることもあるという。
ポッドキャストはネタを思いつくのが大変ですが、質問箱からアイデアをもらったりしています。みんなに支えられてやっています。
とその苦労を話しつつも、
でも、みんなの役に立てばいいなと思っています。
とその取り組みに対する熱意を覗かせていた。
そしてその共有の精神はドラムキットにもつながっている。CRAMはBandcampで「Evil Cram Drum Kit」と題した3つのドラムキットを配布・販売しており、現在高知で活動するビートメイカーのmatatabiとのタッグでリリースした最新アルバム『LOOPER』で使ったドラムのドラムキットもmatatabiのサイト「痛快!またたび商店」で販売している。
・Evil Cram Drum Kit
・CRAM&matatabi『LOOPER』
・「徹底的な鳴りへの拘りが詰まった」『LOOPER』派生のドラムキット
ドラムキット用に音を作るのではなく、『LOOPER』のドラムキットのように作品で使ったドラムをそのまま入れているそうだ。
「これを使えばCRAMのドラムを組めるよ」みたいなコンセプトで、作品で使ったフィルターとかの設定のまま書き出して作っています。僕は自分でドラムキットを使う時はループを使わないのですが、僕が使わないものを入れてもな、と思うのでループは入れずに単音を入れています。
Twitterでメンションをもらって、自分のドラムキットを使って作ったビートを聴いたこともあるという。
やっぱり、使う人が違うと全然違う感じになりますね。音の取り方とかが違うので、僕は僕のビート、その人はその人のビートに仕上がっていると思いました。
と、ドラムキットをリリースすることの面白さを語ってくれた。
ドラムキットの魅力とバーンアウト対策
CRAMは自身でドラムキットをリリースするだけではなく、他のビートメイカーが作ったものを使うこともあるという。ドラムキット導入の魅力についても聞いた。
手軽なのがめちゃくちゃいいなと思っています。いちいちドラムのブレイクを探してパソコンに取り込んで切って、一個一個に分けるのを一回一回やるのは大変なので。ディケイとかピッチとかを変えていけば、一個のドラムキットで全然違った雰囲気のビートを5、6個作ることができて、アルバム3つとか作れたりします。
お気に入りのドラムキットについて聞くと、
Fly Anakinとかと一緒に曲を出しているTuamieってビートメイカーが出しているドラムキットです。Vol.1, 2, 3とあって全部やばいんですけど、僕は1が特に好きですね。
・Tuamieのドラムキットは、下記Linktreeページから購入することができる。
との答えが。TuamieはCRAMにとっての「史上最高のビートメイカー」の一人で、CRAMはそういった好きなビートメイカーの名前からドラムキットを探すそうだ。
いつも「(好きなビートメイカーの名前) drum kit」とかで検索してドラムキットを見つけています。公式のやつだけじゃなくて、そのビートメイカーが好きな有志の人が作ったそのビートメイカーっぽいドラムキットがRedditに落ちていたりするんですよね。そういうのを僕がこそっと落としたりしています(笑)。
ディグの新たな形を思わせるエピソードだ。そうして集めた素材やサンプリングソースを使って、Bandcampに並んでいる膨大なカタログを生み出しているCRAM。「一個のドラムキットでアルバムを3つ作れる」という言葉もあったが、そのペースはある程度抑えているという。
毎日2、3曲を作っています。僕は一日3曲で絶対に止めるようにしているんですよ。一日にいっぱい作り過ぎると燃え尽きて、次の日がゼロとかになるんですよね。そうなるとまた次の日に曲を作るのがめちゃくちゃきついんです。ゼロの日をなくすために3曲で止めて、まだ元気な時は他の人の作品の研究やサンプル集めをするようにしています。バーンアウトでビートを辞めてしまうのが嫌なんですよね。
ペースを抑制してモチベーションを一定に保ちつつ、コミュニティの運営などで他者との交流で刺激を受けながらビートを作り続けるCRAM。今回のインタビューでは、そのほかにもビートメイクへの姿勢やテクニックなど様々なことを話してくれた(筆者のnoteにて公開中)。
そのビートへの熱が支えるコミュニティは、ビートメイカーなら誰しも得るものがあるだろう。
取材・文:アボかど
CRAM プロフィール
福岡県出身のトラックメイカー/プロデューサー。
10代より地元・福岡をベースにDJとして活動。メリーランドのラッパー、Dexter Fizzとの ジョイントでのアルバム・リリースや、移住したカナダ・トロントでの活動を経て、帰国後はILLSUGIとのコラボ作のリリースやISSUGI作品への参加も話題に。新世代ビート・シーンを代表するアーティストのひとり。
Twitter:@cram_moevius
Soundcloud:https://soundcloud.com/cram-2
Bandcamp: https://cramscram.bandcamp.com/
Spotify:https://open.spotify.com/artist/2kuzzESZpVYXEbJPF1o82D
Apple Music:https://music.apple.com/jp/artist/cram/