2022.04.13

イラスト×楽曲で表現するネット発クリエイターのクロストーク Puzzle Project連載インタビュー⑦ ニト。・ふるーり

音楽だけでなくイラストやアニメーションまで手掛け、自身の世界観を表現する新世代のマルチクリエイターが頭角を現しつつある。

インターネットを活用して自身の作品を発表している次世代アーティストをサポートするソニーミュージックの新プロジェクト「Puzzle Project」に注目した連載インタビュー。第7回では、多数のエントリーから第2弾参加アーティストとして選ばれた5組のうち、ふるーりさん、ニト。さんという2名のボカロPへのインタビュー取材を行った。

ニト。さんは楽曲だけでなくMVも1人で制作し世界観を表現、最近では楽曲提供やイラスト制作依頼など活動の幅を広げている。ふるーりさんも楽曲に加えてアニメーション制作を自ら手掛け、コラボや楽曲提供など旺盛に活動を繰り広げている。

共にマルチな表現のアウトプットを持った2人のクリエイターに、目指すものを語ってもらった。

取材・文:柴 那典

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プロフィール

ニト。

楽曲、アートワーク、MVすべてを1人で完結できるマルチクリエイター。
2019年よりボカロPとしての活動を開始。
学生時代培ったアートワークセンスとキャッチーなギターメロディーをフルに活用した作品を作り続けている。
最近は楽曲提供やイラスト制作を受けるなど精力的に活動をしている。

YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCcfhuaxXmfNysOY8FKYj4pQ
Twitter: https://twitter.com/nito_umbrella
niconico: https://www.nicovideo.jp/user/88405281/video

ふるーり

ボカロP/作詞作曲編曲/エンジニアリング/歌唱/アニメーション制作など、作品の全てを一人で手掛けるマルチクリエーター。
独自のタッチで描かれる世界観と音楽性を武器に幅広く活動している。
MECREにて歌い手の梓川とのコラボが決定していたり、テレビ朝日系「musicるTV」にてマルチクリエイターとして紹介されたりと注目を集めている。

YouTube: https://youtube.com/channel/UCVtI0HSZ3lUTd4_sMIi5X-g
Twitter: https://twitter.com/furu_ri

ニト。・ふるーり インタビュー

お2人が今のような形で活動を始めたきっかけは?

ニト。 絵が好きだったので、イラストは音楽をやる前から描いていました。高校の時には美術部とギター部を兼部していて。バンドもやっていたんですけど、学園祭でオリジナル曲を作ったのをきっかけにボーカロイドでも自分の曲を作ろうと思ったんです。そこから音楽にも前から描いていたイラストを活かせたらと思ってやってきました。

ふるーり 僕はもともと歌うことが好きだったので、歌い手として「歌ってみた」の投稿をちょっとだけやっていたんです。でも、それだけだとあまり見てもらえなかったのでボーカロイドで楽曲を作るようになって。それでもなかなか見てもらえなかったから「こうなったらアニメにも手を出すか」と思って、昨年からアニメを作り始めました。

憧れの方や、活動を始めた頃に影響を受けたクリエイターにはどんな方がいますか?

ニト。 僕は昔から米津玄師さんが好きで。ボカロで曲を作りたいと思ったのも米津さんの影響です。イラストもすごく魅力的で、絵のタッチも真似て描いていました。

ふるーり 僕はEveさんや、ずっと真夜中でいいのに。さんが好きです。Eveさんやずとまよさんのように歌を作ってアニメーションのMVにするというのも、いつかやってみたいとずっと思っていました。まさか自分で全部やる形になるとは思っていなかったんですけど(笑)。

ふるーりさんはボカロPとして活動を始めて2年ほどですが、その時々で刺激になった人や影響を受けた人はいますか?

ふるーり 僕はわりと流行りに左右されやすいほうで、1人のアーティストさんをずっと追いかけるというより、その時代、その時代で流行っているものに影響を受けてきました。人というよりは曲に左右されてきたところがあります。

ニト。さんはどうでしょうか。2年半くらいの活動を振り返って、 刺激になったり、影響になったものは?

ニト。 ふるーりさんもおっしゃっていましたけど、ずっと真夜中でいいのに。さんにはかなりハマっていました。ストリングスの使い方が斬新だと思ったんです。どの曲もハズレがないですけど、一番好きな曲は「お勉強しといてよ」です。

ふるーり めちゃくちゃいいですよね。

ふるーりさんがずとまよにハマったきっかけは?

ふるーり 最初は友達に教えてもらったんですけど、その時はずとまよさんがまだ活動を始めたばかりだったので「俺、古参になれるかも」みたいな感じでハマっていったんです。ACAねさんの世界観も好きだし、編曲も格好いいし、楽器隊の人たちも皆さんプロフェッショナルだし、アニメーションもいいんですよね。当時からEveさんが好きだったので、EveさんのMVも作られているWabokuさんや、sakiyamaさんといった方々の作るアニメーションと曲の組み合わせがすごく良くて、どんどんのめり込んでいった感じです。

ニト。 僕もsakiyamaさんのイラストが好きなんですよ。

ふるーり めっちゃいいですよね。それこそニト。さんのイラストにもsakiyamaさんへのリスペクトを感じます。

ニト。 めっちゃしてます。いい意味でごちゃごちゃした感じが好きなんです。

他にもイラストレーターやアニメーターの方で好きな方はいらっしゃいますか?

ニト。 いろんな人を見ているんですけど、アボガド6さんも好きです。

ふるーり 僕はやっぱりWabokuさんですね。絵柄だけでなく、Wabokuさんが作り出すストーリーや世界観が素敵だと思います。最近いいなと思っている方は土海明日香さんという、まふまふさんの「栞」という楽曲のMVの監督を務めていらっしゃる方や、津田さんというずっと真夜中でいいのに。さんの「猫リセット」のMVに参加されていた方がいます。僕もいろんな方の影響を受けています。

自身の活動を振り返って、ターニングポイントになった曲、手応えがあった曲は?

ふるーり 「アウトライナー」ですね。この楽曲は、僕が歌と楽曲とアニメーションを最初に全部やった作品なんです。それまで全くイラストも描いてこなかったし、アニメーションを作ったこともなかったんですけど、ソフトを買って練習して、そこから約1ヶ月半くらいで、とりあえず作ろうと思って頑張って作った作品です。

イラストもアニメーションもその時が初挑戦だったということですが、どれくらいかかったんでしょうか?

ふるーり 昨年の3月後半にペンタブを買って、4月の頭から練習を始めて。5月から制作に取りかかって7月21日にアップしました。完成したときには「やっと終わった」と安心したと同時に、「自分でも結構できるな」と思いました。周りからもすごい反響をいただけて「これかな」という感覚がありました。

ニト。さんはどうでしょう?

ニト。 「踊れなくなる様に踊らせて」という曲は、自分が作りたいものをちゃんと形にできたような気がした曲ですね。ニコ動の反応もすごく良くて、自分の曲を認めてもらったような気がしてすごく嬉しかったです。

この記事を読んでいる方の中には、ボカロPや自作の曲を作っていて、自分でアニメーションもやってみようと思っている人もいると思います。そういう人に向けて、まず何を買って、何から始めたのか聞いていいですか?

ふるーり 僕はとりあえず3万円くらいで買えるペンタブをAmazonで調べて買って。届いてからはYouTubeをひたすら見ました。アニメだけじゃなく、イラストも描いたことがなかったので、人間も背景もまともに書けないような状態だったんですけど、YouTubeには人物の顔の書き方とか、いろいろノウハウが載っているので、とりあえずそれを見まくって自分に落とし込むという作業を3ヶ月ほどしていました。

ふるーりさんおすすめのYouTubeチャンネル「hide channel【顔と体の描き方講座】」
https://www.youtube.com/channel/UCAcGenBoh-mXpufzPtNh0hg

イラストの制作ソフトはどういうものを使っていましたか?

ふるーり 僕はCLIP STUDIO PAINTでイラストを描いて、それを書き出して、After Effectsで動画編集して作っています。

ニト。 僕もCLIP STUDIO PAINTを使っていますよ。動画編集はフリーのAviUtlというソフトを使っています。CLIP STUDIOで書いたイラストをJPEGとかPNGに書き出してAviUtlで編集している感じです。

ニト。さんおすすめのAviUtlを使った動画編集に関する動画

ひとつの曲を作ってMVを完成させるのに、どれくらいの時間がかかるんでしょうか。

ニト。 曲にもよるんですけど、曲と動画と合わせて2ヶ月くらいですかね。

ふるーり 僕は楽曲を完成させるのに3週間から1ヶ月くらいで、アニメーションは「アウトライナー」は1ヶ月半くらいだったんですけど、2作目の「JEWEL」という曲は3ヶ月かかりました。背景もがっつり描いて、キャラクターも「アウトライナー」のときよりも良いものにしたかったので、がっつり時間をかけてやりました。

率直な質問ですけど、大変じゃないですか?

ふるーり 大変です。

ニト。 「曲ができた……と思ったらイラストも書かなきゃいけない」ってなると、ちょっと鬱になります。

音楽と絵と、どちらが先というのはありますか?

ふるーり 僕は楽曲を全部完成させてから、その後にアニメを作るという形ですね。ただ、楽曲を作っている途中に頭の中に映像みたいなものが浮かぶんです。それを想像しながら、「ここでこう切り替わったら格好いいだろうな」と考えて、それをアニメにするという感じで作っていますね。

ニト。 僕も最初に曲ができて、その後に絵をつける感じですね。下書きとか絵コンテみたいな感じで一回描き出して、そこから作っています。

お2人それぞれ、お互いの作品に対しての印象や作り手として負けられないと思うところはありますか?

ふるーり ニト。さんは楽曲もめちゃくちゃいいですし、動画のクオリティも、イラストも僕と比べ物にならないくらいレベルが高くて学ぶことが多いです。「マスカレイド」という曲でも、今の流行りも汲み取りつつニト。さんの世界観も出ていてすごいなと思います。

ニト。 ふるーりさんのクオリティもヤバいですよね。まず曲とアニメーションを1人で作っているということを聞いた時にすごいなと思って。僕もイラストを描いて曲を作っているんですけど、アニメーションはやったことがなくて。何ヶ月もかかると聞いて、すごく努力されているなと思って、感心しました。

ふるーり ありがとうございます。個人的にはニト。さんのアニメも見たいです。

ニト。 やってみたくはあるんですけど、僕は途中で投げ出しそうです。

ふるーり 僕、なんでアニメを始めたかというと、絵を始めたばっかりでイラストが上手い人には勝てないけど、アニメだったらまだ人口も少なくて勝てるかなと思ったからなんです。でも、ニト。さんのイラストは上手いし、これ動いてアニメになったらどうなるんだろうって、すごく楽しみで。あと、せっかくなので後々に「こういう機会があったからアニメ始めました」って言ってくれたら嬉しいなとか思ってます。

ニト。 やらなきゃダメみたいな感じになってきた(笑)。いつかやりたいとは思っていたので、挑戦してみるのもいいかなって思います。

ふるーり 楽しみにしてます。

去年あたりからハッシュタグ「#indie_anime」やProject Youngのように、自主制作のアニメーターのコミュニティや若手のクリエイターもどんどん出てきているような動きもありますが、そういうところにも刺激を受けたりしますか?

ふるーり Twitterの「#indie_anime」のハッシュタグを見ても、若くてすごい方がいっぱいいらっしゃって。すごいなとは思うんですけど、羨ましいなと思っちゃうんで、逆に見ないようにしてます。

ニト。 めっちゃわかります。見るといい刺激にはなるんですけど「負けた」みたいな気持ちが生まれてきちゃうんですよね。

楽曲制作についても聞かせてください。まずお2人はどんな制作環境で作っていますか?

ふるーり 僕はDAWはCubaseを使っていて。楽曲のクオリティを上げたいんで、プラグインもちゃんと買うようにしています。

「JEWEL」ではエレクトロの曲調に挑戦したり、サウンドメイキングの幅も広げているような印象もあるんですけど、そのあたりはどうでしょう?

ふるーり 最初の頃は自分の中の好みがAyaseさんとかずとまよさんとか、他にもボカロシーンの曲が中心だったんですけど、最近はK-POPが自分の中の好みになってきたので、いつの間にかこういう感じになっていたりします。

ニト。さんはどうでしょう。まず制作環境はどんな感じですか?

ニト。 僕もCubaseを使っています。音源はNative InstrumentのCompleteとかWavesのプラグインとかを使っていますね。

ギターロックの曲調が多いですが、サウンドメイキングについてはどんなところにこだわっていますか。

ニト。 ずっとバンドサウンドで作ってきたので、それを中心に作っていますね。あとは、たとえば「マスカレイド」の途中に舞踏会みたいに曲調が変わるシーンがあるんですけど、曲の途中で雰囲気が変わったり、連想できるようなイメージのフレーズを工夫して入れたりしています。あとは、バンドサウンドだけじゃなくて、いろんなジャンルの曲を作ってみたい、いろんな曲に挑戦したいと思っています。

Puzzle Projectに参加してからの変化についてはどうでしょうか。お2人とも楽曲提供の機会が広がったと思うんですが、どう捉えていますか。

ニト。 コンペ自体が初めてだったんですけど、Puzzle Projectに参加してからは、コンペ用の曲を作るほうが自分の曲を作るよりも多いくらいで。いろんなジャンルの曲を作らせていただいて、良い経験になっているなと思います。特にyamaさんの新曲「MoonWalker」で作詞作曲として参加させていただいた貴重な経験は、とても印象的でした。

テーマがあっての曲作りの経験が増えてきた。

ニト。 そうですね。曲作りの引き出しが広がったし、リファレンスに従って曲を作る能力は少し鍛えられたのかなって思います。いろんな曲を調べたりする中で自分が今まで聴かなかったような曲に知り合えたり、新しい発見があったりもします。

ふるーりさんはどうでしょうか。

ふるーり 僕もそれまで自分が好きな曲をYouTubeやニコニコ動画やTwitterに上げてきただけだったので、コンペに参加して、要望を受けて、それを解釈して作るみたいなことが増えてきたことで成長したのかなと思います。自分の曲を作るよりも、ひとりのアーティストさんに対して「この人はどういう曲を歌ったらかっこいいかな。どういった曲だったらこの人の良さが出るかな」と考えているほうが楽しいなと思うようになって。こういう活動も並行してできたらと思っています。

そういった経験から得たスキルや技術もありますか?

ふるーり 曲作りもそうなんですけど、連絡するときの言葉遣いとかやり取りのマナーとか、そういうところの学びがありました。自分の好きなものというより相手がどういったものを欲しているのかを考えたり、ターゲットを絞って曲を作ったりする経験を通して、考え方も変わってきたと思います。

ニト。さんはイラストの制作請負や提供もされていますが、このあたりは?

ニト。 自分のイラストを好きで依頼してくださる方々がいて。とても嬉しいんですけど、その曲にどんなイラストが合うのかを想像して描くので、よく考えて構成しないといけないんですよね。それが勉強にもなるし、自分の力にもなると思います。

最後に、クリエイターとしての将来像についても聞かせてください。ふるーりさんもニト。さんもいろんな可能性と選択肢を持っていると思うんですが、この先どんなことをやっていきたいと思っていますか?

ふるーり 今後はボカロ曲も出しつつ、いわゆるEveさんとかずとまよさんみたいな感じで自分が歌った曲でのアニメの作品も出して、どちらの分野でもヒットメーカーになれたら一番いいなと思っています。

ニト。 僕もやっぱりある程度の知名度は欲しいですけど、ボカロ曲にかぎらず、幅広くいろんな曲、いい曲を作りたいと何より思っていますね。

「Puzzle Project」とは?

「Puzzle Project」は、次世代アーティストの音楽性・楽曲・世界観とソニーミュージックグループが持つソリューションを掛け合わせ、作品を世界に広げていくプロジェクト。プロジェクト参加アーティストには、小説を音楽にするユニット“YOASOBI”を誕生させた小説投稿サイト「monogatary.com」によるクリエイティブサポートや、世界に45ヵ国以上の拠点があり、2019年より日本でサービスを開始した大手音楽ディストリビューション会社「The Orchard」での世界配信サポートが行なわれる。また、その他ソニーミュージックグループが持つさまざまなソリューションを活用し、楽曲制作、映像制作、ライブ制作などのクリエイティブサポートなどが行なわれる。

公式サイト
https://puzzle-project.jp/

随時エントリー受付中。エントリーはLINE公式アカウントより。
https://lin.ee/cPUfl4c

参加資格

  • インターネットを活用し自身の作品を発表している方
  • 年齢不問
  • 国籍不問 ※日本国内在住の方に限ります