2022.03.30

10代ボカロPのクロストークから見えるシーンの今! Puzzle Project連載インタビュー⑥ 袖野あらわ・SAKURAmoti・LonePi

10代のボカロPやクリエイターたちがインターネットを介して集う新たなコミュニティが生まれている。同世代の作り手たちが親交を深めつつ切磋琢磨している。そんな実情に迫る記事をお届けする。

インターネットを活用して自身の作品を発表している次世代アーティストをサポートするソニーミュージックの新プロジェクト「Puzzle Project」に注目した連載インタビュー。第6回では、多数のエントリーから第2弾参加アーティストとして選ばれた5組のうち、袖野あらわさん、SAKURAmotiさん、LonePiさんという3名のボカロPへのインタビュー取材を行った。

「The VOCALOID Collection ~2021 Autumn~」(「ボカコレ2021 秋」、以下ボカコレ)に投稿した「Deep」がルーキーランキング4位となった袖野あらわさん。代表曲「ハイドレンジア」が400万回再生を突破し(2022年3月現在)注目を集めるLonePiさん。“中学生ボカロP”として活動を始め成長著しいSAKURAmotiさん。10代の3人はPuzzle Projectにエントリーする前から交流のある面々で、LonePiさんとSAKURAmotiさんの名前は、晴いちばんさんとWald/わーるどさんにご登場いただいた前回の記事でも挙がっていた。

今回の取材では、それぞれのクリエイターとしての来歴やこだわりを語ってもらいつつ、クリエイター同士のクロストークを繰り広げてもらった。

取材・文:柴 那典

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プロフィール

袖野あらわ

2020年10月から活動を開始。
インスト曲をメインに制作していたが、2021年4月からボカロ曲にも挑戦している。
最近は編曲にも興味を持っている。

YouTube: https://www.youtube.com/channel/UC7509pHc4zYdUtp9U3hFp6g
Twitter: https://twitter.com/sleeve_tears_

SAKURAmoti

16歳、顔出しはしていないが自称「世界一のイケメン」。
幼少期から楽曲制作を始め、2019年9月に動画投稿サイトに楽曲を投稿、ボカロPデビュー。
ピアノ・ギターが演奏でき、幅広い編曲が可能。
現在ではボカロ曲の投稿だけでなく、歌い手への楽曲提供や歌ってみた動画の投稿なども精力的に行なっている。

YouTube: https://www.youtube.com/SKR_motimoti
Twitter: https://twitter.com/SKR_motimoti

LonePi

2018年よりボカロPとしての活動を開始。
楽曲、アートワーク、映像を自身で手掛ける。
代表曲「ハイドレンジア」は300万再生を突破。
心地の良いリズム感と遊び心のあるワードセンスに定評がある。

YouTube: https://www.youtube.com/channel/UC_FFb9bWEj0Bbdlnp5SFPIg
Twitter: https://twitter.com/LonePi_

袖野あらわ・SAKURAmoti・LonePi インタビュー

みなさんがPuzzle Projectにエントリーしたきっかけは?

袖野あらわ(以下、袖野) 僕はZEROKUくんというボカロPから知りました。その時には第一弾のエントリー期間はもう終わっていたんですけど、公式LINEに「聴いてください」と曲を送ってエントリーさせてもらいました。

SAKURAmoti 僕は、晴いちばんくんとか、もともと仲のいい人が第一弾発表のメンバーの中にいるのを見て「自分もやりたいな」と思って。話を聞いたり活躍を見ていたりもしていたし、改めてサイトを見たらいつでも募集しているということだったので、エントリーさせていただきました。

LonePi  私も第一弾発表のメンバーの中に普段からTwitterやDicordで仲良くしているメンバーの方が参加していて、楽しそうだなと思って。一人で活動をしていたんですけど、これからは一人だけじゃできないこともやっていきたいなと思って、応募させていただきました。

晴いちばんさんとわーるどさんのインタビューでもSAKURAmotiさんとLonePiさんの名前が挙がっていましたが、お二人とも10代のボカロPや歌い手のコミュニティに入っているんですね。

袖野 そうですね。晴いちばんくんとはLINEでもよく話します。

SAKURAmoti DiscordとかTwitterとか、いろんなところでお話ししたり、仲良くしています。袖野くんと僕は一緒に楽器屋さんに行ったこともあります。

みなさんが影響を受けているアーティストやクリエイターにはどんな方がいますか?

LonePi 私はもともと曲だけじゃなく、自分の中にある物語みたいなものを表現するのが好きで。ボカロ曲を通して物語を展開している方ということで、小学生の頃から『カゲロウプロジェクト』のじんさんや『ミカグラ学園組曲』のLast Note.さんに憧れがありました。じんさんの曲を最初に聴いたのは「チルドレンレコード」だったんですけど、小学校の給食の時間にカゲロウプロジェクトの曲を聴くことが多くて、そこからボカロを知っていった感じです。Last Note.さんは小説から『ミカグラ学園組曲』というプロジェクトを知って、そこから曲も聴くようになりました。物語の中のキャラクターを曲で表現するというところに憧れて、自分もそういう創作物を作ってみたいと思うようになりました。

SAKURAmoti 僕は中学1年生の後半くらいからボカロ曲を聴くようになって、中学2年生でボカロPとしてデビューしたんです。その頃はkemu さんの「六兆年と一夜物語」とか、まふまふさんが「歌ってみた」で投稿されていた「命に嫌われている。」とか、そういった曲を聴いてボカロをどんどん好きになっていったので、今でもその方々のことを尊敬しつつ曲を作っています。

袖野 僕は小学校から中学生になるまでRADWIMPSさんをよく聴いていて。中学1年生の頃にクラスメイトからOrangestarさんを教えていただいて、そこからはボカロにハマってボカロばっかり聴いています。Orangestarさんに出会ったのは「DAYBREAK FRONTLINE」という曲がきっかけで、その曲はずっと聴いていますね。

現在進行形で好きなアーティスト、刺激を受けているクリエイターの方にはどんな方がいますか?

LonePi Amuさんの「ぴえん症候群」という曲をYouTubeの広告で見つけて聴いたんですけど、歌詞とか曲にすごく中毒性があって、すごくハマってますね。今もカラオケに行ったら歌ったりしてます。

SAKURAmoti 最近は100回嘔吐さんにハマっています。すごく個性があるのに曲の幅がものすごく広くて、どの曲を聴いても格好いいと思います。

袖野 僕は煮ル果実さんが大好きです。憧れますね。

それぞれの作り手としてのここ一年を振り返っての話も聞ければと思います。袖野さんはボカロ曲を作るようになってからちょうど一年くらいとのことですが、「Deep」はボカコレでも大きな注目を集めました。どんな実感がありますか?

袖野 「Vanilla」を出してから「Deep」を出すまで半年曲を出していなかったんですけど、その間も人に曲を書き下ろしたり、他の人の編曲を体験させていただいて、腕が上がった実感はあります。効果音の使い方とか、細かくできるようになったなと。

SAKURAmotiさんとLonePiさんは袖野さんの曲を聴いて、ここがすごいと思うところはありますか?

SAKURAmoti 同じクリエイターとして、袖野くんは自分の音を持っているのが羨ましく思います。一発で袖野くんの曲だとわかるんですけど、それでいて耳に馴染む心地よいサウンドで。公開される前、「Deep」の仮バージョンを送ってもらった時もすごいなと思いました。曲が始まってすぐのドロップでのリリースカットピアノの入り方とか、ドラムの入れ方、リバースの使い方とか、全部がすごいし、それが耳の中ですごいちょうどいい場所で聴こえていて。編曲が上手だなと思って、尊敬しています。

LonePi 私はTwitterで繋がった当初にDMで「こういう曲を作った」って聴かせていただいたことが何回かあったんですけど、その時からミックスと音の空間の使い方が上手いなと思っていて。SAKURAmotiさんが言っていたように耳あたりを良くする技術もあって。私もそういうところを学んでいきたいなと思っています。

LonePiさんはどうでしょうか。「ハイドレンジア」は再生回数も多くターニングポイントになったのではないかと思いますが、振り返ってどうでしょうか?

LonePi 「ハイドレンジア」以前と以降で、私の中でスタンスが変わったというのはあります。それまでは特に何も考えず、自分が作りたいものを作れればそれでいいと思っていて。ミックスやコード進行についてもほぼ感覚だけで作ってたところがあったんですけど、「ハイドレンジア」が評価されるようになってから、聴いた人が感動するような音作りや曲展開の仕方にしようと思って、音楽の理論的なところも勉強するようになりました。これからもそういうところをより追求して曲を作っていけたらいいなと思っています。

SAKURAmoti 「ハイドレンジア」を最初に聴いた時は「サビのメロディが良すぎるな!」と思いました。LonePiさんの曲はメロディが耳にめちゃめちゃ残るし、トラックもすごく丁寧に組み立てられているし、作曲だけじゃなくMVも一人で作っているとは思えないほどのクオリティで、すごいなと思っています。

袖野 特にリリースカットピアノの使い方が上手いですね。イラストを自分で書いてらっしゃるのもすごいなと思います。

SAKURAmotiさんはどうでしょうか。アレンジや作曲面で成長を見せている印象がありますが、振り返っていかがでしょうか?

SAKURAmoti ここ一年は自分的には納得できない時期でもあったんですけど、作る曲のクオリティとしては間違いなく上がったなという自負があります。去年作った曲の中で一番お気に入りな曲は「アーティフィシャルスマイル」という曲なんですけど、メロディの作り方や編曲の仕方にしても、一年前の曲よりも今のほうがよく聴こえる。準備期間として捉えるとなかなか良い一年だったのかなと振り返って思います。

袖野 SAKURAmotiくんはミックスが上手いなと思っていて、個人的にミックスをよく教えてもらったりしていて、空間の作り方とかで参考にしています。

LonePi 最初、2年前くらいにTwitterでSAKURAmotiさんの名前を知ったんですけど、中学生って書いてあって、めちゃくちゃびっくりしたのが第一印象でした。そこから他の方が主催している既存楽曲のアレンジリレーみたいなものにも何回か一緒に参加させていただいたことがあったんですけど、もとの楽曲の良さを維持しつつ自分なりのオリジナリティを入れてアレンジするのが上手いなと感じていました。これからももっと伸びるなと確信しています。

DAWやプラグインなど楽曲制作の機材についての話も聞かせてください。SAKURAmotiさんはCubase12を導入したとTwitterに書いていましたが、使い心地はどうでしょうか?

SAKURAmoti めちゃくちゃいいです。今までは使う時にライセンスの入ったUSBを挿さないといけなかったんですけど、それが無くなったのが嬉しいです。細かいところもいろいろ良くなって、快適に曲を作っています。

袖野さん、LonePiさんはどんな制作環境でしょうか?

袖野 機材周りはあまり整っていないというか、安めの価格帯の機材を使っているんですけど、プラグイン系は買ったりしていて。アンプシミュレーターとかピアノ音源とかシンセサイザーとか、そっちにお金をかけています。特にSerumというシンセサイザーを導入してからは一気にクオリティが上がりました。

LonePi 私もほとんど機材は揃えていなくて、Studio OneというDAWとオーディオインターフェースくらいの環境です。「ハイドレンジア」ではStudio Oneにもともと入っている楽器しかほとんど使ってなくて。プラグインとかも導入したいなと思っているんですけど、今のところどれがいいのか全然わからなくて。他の人に聞いたり、セールの期間を狙って調べてみたりしているところです。

SAKURAmoti LonePiさんの曲を聴いていたら、僕が昔に使っていてどうしても馴染まなかった「MT Power Drum Kit 2」というフリーのドラム音源の音がLonePiさんの曲の中から聴こえてきて、しかもそれがめちゃくちゃ曲の中に馴染んでいたんですよね。僕がどうやっても使いこなせなくて結局諦めた音源が、LonePiさんの曲の中では違和感がなくて。そうやって、有り物を使いこなすところはすごく尊敬しています。

LonePi フリーのドラム音源を探していた時に見つけて、プリセットから引っ張り出して使いました。ドラムのパターンを考えるのが苦手だったので助かっています。

袖野さん、SAKURAmotiさんは音作りのこだわりをどんなところに持っていますか?

袖野 ギターの音のコンプ感ですね。パキッとした音の方が好きで、結構強めにかけちゃいます。

SAKURAmoti 良くも悪くも幅広く作っていると思うんですけど、全体的に音がごちゃごちゃしてるのがいいかなと思っていて。どんどん音を入れたくなるほうですね。

みなさんはボカロ曲をメインに作られていますが、ボーカロイド/合成音声ならではの良さというのはどんなところにあると思いますか?

袖野 僕は歌が得意ではないので、そもそも自分で歌うという選択肢がなくて。ボカロを使い始めてからは人間が歌えないようなメロディも歌ってくれるし、自分より上手いし、作っていて楽しいですね。

LonePi 私はもともとボカロの声そのものが好きで聴いていたので、自分が作った曲にボカロの声が入っていたらいいなという憧れがあって。曲を作るときは、歌い手さんに曲を依頼するみたいな感覚でボカロに自分の曲を歌ってもらって曲を作っています。

SAKURAmoti 僕は時々歌ってみたとかも投稿しているんですけど、歌が上手なわけでもないし、音域が合わないところもあるので、どうしても制約がある。自分が作りたいメロディを作れて、自分が表現したいものをそのまま出せるというのがボカロの魅力だと思っています。

今のボカロシーンについてはどう見ていますか?

SAKURAmoti 人がたくさんいるなという印象はすごくありますね。僕が始めた時よりも確実に作り手側の人数が増えているし、僕と同じくらいの年齢層の人も増えた。ソフトの面でもそうなんですけど、誰でも作りやすい環境が整ってきたのかなと思います。リスナー目線としても、すごい人がたくさん出てきて、いろんな音楽に出会えて楽しいなと思います。

LonePi 10年以上前のボカロシーンはニコニコ動画とか限られたコミュニティのコンテンツという印象があったんですけども、最近はTwitterとかTikTokにも楽曲を公開する場が増えてきて。ボカロという文化がどんどん広いところで知られるようになってきているし、中高生でもスマホで手軽に作曲できるようになってきている。始めることに対するハードルが低くなったなと思います。

袖野 SAKURAmotiくんが言った通りなんですけど、聴く側も作る側も人が増えましたね。作る側としては、テレビの中でも特集されるくらい広まっているのは嬉しいです。

最後に皆さんの将来像についても聞かせてください。この先やってみたいこと、突き詰めていきたいことにはどんなものがありますか?

SAKURAmoti ボカロPだけではなく、いろんな人に曲を書いたり、自分で表現したり、音楽以外のこともやってみたいと思っています。メインは音楽ですけど、映像を作ったり、プログラミングをやったりもしたいなと思っています。

袖野 フィーチャリングで他の人に歌ってもらいたいというのはあります。同じ曲をYouTubeではボカロP自身や歌い手の方が歌唱して、ニコニコ動画ではボカロが歌唱するみたいな分け方で投稿している人も多いので、そういうこともしてみたいですね。

LonePi 今までも自分で音楽を作ったり絵を書いたり動画を作ったりしてきたので、これからもそれは続けたいと思っています。あと自分は楽器が全く弾けなくて、そのことで音作りに制限ができてきたりもしているので、自分で楽器の練習もしつつ、他の方にギターとかベースを弾いてもらったり、歌ってもらったり、そういった形で他の活動者の方との関わりを広げていったりもしたいですね。いろんな方の作品に触れつつ自分の世界を広げていけたらいいなと思っています。

「Puzzle Project」とは?

「Puzzle Project」は、次世代アーティストの音楽性・楽曲・世界観とソニーミュージックグループが持つソリューションを掛け合わせ、作品を世界に広げていくプロジェクト。プロジェクト参加アーティストには、小説を音楽にするユニット“YOASOBI”を誕生させた小説投稿サイト「monogatary.com」によるクリエイティブサポートや、世界に45ヵ国以上の拠点があり、2019年より日本でサービスを開始した大手音楽ディストリビューション会社「The Orchard」での世界配信サポートが行なわれる。また、その他ソニーミュージックグループが持つさまざまなソリューションを活用し、楽曲制作、映像制作、ライブ制作などのクリエイティブサポートなどが行なわれる。

公式サイト
https://puzzle-project.jp/

随時エントリー受付中。エントリーはLINE公式アカウントより。
https://lin.ee/cPUfl4c

参加資格

  • インターネットを活用し自身の作品を発表している方
  • 年齢不問
  • 国籍不問 ※日本国内在住の方に限ります