2022.03.25

beipanaインタビュー ローファイ・ビーツ×スティールギターというスタイルで拓いた理想的な音楽との距離感

DJとして、ビートメイカーとして、そしてスティールギター奏者として、2000年代後半から長きにわたって活動を続けてきたbeipana。東京のクラブシーンやインディシーンにコミットしつつ、マイペースに自らの音楽を模索してきたことはもちろん、2010年代の後半に爆発的に普及したジャンル、「ローファイ・ヒップホップ」の定義や成立などを日本語圏に紹介した立役者として記憶する人も少なくないかもしれない。

そんなbeipanaが2022年1月にアルバム『Soothe Your Soul』をリリースした。本作は、近年InstagramなどのSNSで発表してきた演奏動画をもとにしたもの。スティール・ギターで奏でられるハワイアン・ミュージックとローファイ・ヒップホップのビートが結びついた、シンプルかつユニークな音楽性が耳を捉える一作だ。今回、『Soothe Your Soul』をきっかけに、このスタイルにたどり着いた経緯や、演奏動画のシェアで得られた経験についてインタビューすることができた。話を聞いてみると、何気なく、またユーモラスにも思えるアイデアは、長年にわたるさまざまな関心が、幸運にもひとつのかたちにまとまった結果であることがわかった。

ハワイアン+ローファイ・ヒップホップ、そのスタイルの背景

まず、簡単に自己紹介も兼ねつつ、音楽遍歴についてお聞かせください。

10代の頃は、日本でいうとLITTLE TEMPOとかNatural Calamity、Silent Poetsのような、トリップホップやダウンテンポと括られる音楽に惹かれていました。そうしたジャンルでは、よれよれのギターやスティールギターが使われていることが多いんです。それがここ10年の自分の音楽のスタイルに反映されています。

DTMをはじめたのは2007年ぐらいです。もともとDJをやっていたんですけど、その延長でマッシュアップなどを作り始め、次第にオリジナルのトラックを作るようになりました。ただ、DJの延長線上でダンス・ミュージックを作ってはいたものの、そもそも好きだったのはダウンテンポだな、と思って。2011年くらいにスティール・ギターをワークショップで習い始めて、そこからどんどん自分が好きだったものを作るようになっていったという感じですね。

今回リリースされた『Soothe Your Soul』は、ローファイ・ヒップホップ的なビートにスティール・ギターの演奏、というシンプルかつユニークなスタイルです。このスタイルに挑戦した動機は何だったのでしょうか。

「新型コロナ禍になった」というのが直接的なきっかけです。2020年の夏ぐらいに「しばらく人前でライブやDJをすることがなくなるな」と感じて、YouTubeで定期的に何かをアップしていこう、と決めたんです。やりはじめた当初はLUNA SEAのカバーとか……。

そうでしたね!

あとはトミー・ゲレロとか。好きな曲をスティール・ギターでチルアウト的にカバーしていました。ただ、メロディの耳コピとバッキングのコードの解析が大変で、伴奏を作るのも手間がかかる。なんとかならないかなと考えたときに、先ほどお話しした2011年のワークショップで40曲ぐらいのハワイアンの楽譜をもらったことを思い出したんです。これならメロディもコードも全部書いてある。次はこれをやろう、という感じで始めました。ただ、ハワイアンをスティール・ギターでコピーするのは――そもそもスティール・ギターはハワイ発祥の楽器なので――何のひねりもないことに気づいて(笑)。そこで現代的な解釈として、ローファイなビートと合わせてみたんです。もともと考えていたというよりは、冗談半分というか。「ローファイハワイアン、なんちゃって」という感じでやったら、結構いいリアクションがあった。じゃあ、これも楽譜のストックがなくなるまでやろうかなと思って、今に至ります。

制作環境の変化がもたらした『Soothe Your Soul』

ローファイなビートと合わせよう、というアイデア自体はすぐに思いついたんでしょうか。

そうですね。トリップホップやダウンテンポの影響もあって、そういうビートを作りたいという欲求は元々あったんですよ。2012年に、ワーキングホリデーを使ってオーストラリアに行ったんです。何か楽しい遊び場はないかな、と探しているうちに、シドニーのTAKUというビートメイカーや、Hiatus Kaiyote周辺のビートメイカーの存在を知って。ものすごく短いスパンで、それこそ毎日のようにサウンドクラウドに音源をアップロードしていて。それを見て、そうやって工芸的に音楽に向き合うのもいいな、と。その後も、ローファイのビートメイカーとして知られているwun twoを2014年に知ったり、2015年にはTajima Halさんのライブセットを見てSP-404SXを買ったり。

以前、ブログでローファイ・ヒップホップの成立の経緯についてまとめたことがありましたが、後にローファイ・ヒップホップとして顕在化していった流れを、それ以前からなんとなく横目でちらちら見ていたということも背景にあったんです。ブログにまとめるために最初から調べたのではなくて、「(それまでも存在していたシーンが)いまどうなっているのか」をまとめた結果、ローファイ・ヒップホップというジャンルの話になったというか。

ただ、関心はある一方で自分の表現にはなかなか落とし込めなくて……当時はSoundCloudにDJミックスをアップするようなアウトプットしかできなかった。それが、いまならできるんじゃないか、と思って始めました。

あと、PreSonus Studio OneにDAWを乗り換えたのもきっかけのひとつです。それまではWindows XPのマシンでACID(※)を使っていて……。

※1998年にSonic Foundryが開発したループシーケンサー。ループ素材の切り貼りで楽曲制作するソフトウェアの嚆矢だった。Sonyへの売却を経て現在はMAGIX社が販売している。

ACIDを、しかもXPで!?

はい(笑)。2019年に配信のみで出した『Windy Waves』というアルバムがあるんですけど、あれもACIDですね。セキュリティ上危ないので、マシン自体をネットから完全に遮断して使っていたという(笑)。使っていたバージョンでは、サイドチェイン(※)が使えなかったんですよ。DAWを変えたことで、スティール・ギターをキックでダッキングさせるみたいなことができるようになった。それも頭にあって、「もうビートを入れれば自分のこれまでの欲求を満たせる状況も整ってるし、やろう!」みたいに。

※外部からの入力に合わせてエフェクトのかかり具合を変える仕組み。コンプレッサーとあわせて用いられることが多く、「キックが鳴ったときだけ他のパートの音量を下げる」といった効果(=ダッキング)が作りだせる。

『Windy Waves』にも、ローファイに近いビートが入っていますよね。

はい。ただ、それをローファイに寄せられなかった理由があって。あのビートは実際に作ったのが2017年で、サイドチェインがかけられなかった。あと、2017年当時はサンプルパックの市場がローファイの需要に全然追いついていなかったんです。LAビート、ソウルフルヒップホップ、トリップホップといったものしかなかった。だからサウンドに乖離ができちゃって。もうちょっと弱々しい感じがいいんだけどな、と思いながらサンプルを選んでいました。

「ローファイらしさ」を作りだすサウンドの決め手

現在、ビートはどのように組んでいますか? 打ち込むのか、ループの編集なのか。

サンプルパックのループのリズム配置を下敷きにして、打ち込みも併用して音色を変えていきます。リズムの形はそのままで、キックやスネア、ハイハットを別のサンプルパックから選んで組み直します。特に強いこだわりはないんですけど、現代的なローファイの文脈に合わせつつも意識的に避けているのが、J Dilla的なモタりです。トリップホップ・キッズだったので、そういうモタりの感覚が自分のなかにないんですよね。むしろ、スクウェアで淡々とした感じを意識しています。

スティール・ギターの録音や音作りはどのようにされていますか。

Behringerのプリアンプ付きインターフェイスに、モノラルでダイレクトに差して録音しています。エフェクターなどは介さずに素のままです。最近は、トーンを絞って高域が出過ぎないよう意識して録音しています。その後、Studio One側でプラグインを用いて音作りしていきます。使うものは決まっていて、全部Studio One純正のものです。アンプシミュレーター、コンプレッサー、リバーブ、EQ、ダイナミックEQ、ビットクラッシャー……中でも、ローファイ的な質感の要になるのが、ビットクラッシャーとコンプレッサーに用いるサイドチェインです。サイドチェインはスティール・ギターだけではなく、ウワモノ全体にかけていますね。そして、マスタリングはiZotope Ozone 9です。好みの鳴り方をしているローファイのビートをリファレンストラックにして使っています。

録音時のセットアップ

なるほど。ローファイらしさを出すのはビットクラッシュの質感と、サイドチェインなんですね。

はい。2014年にローファイ系ビートメイカーのJinsangがリリースした「Hawaii」という曲があって。Santo & Johnnyというスティール・ギターの名手の曲をサンプリングしているんですが、キックドラムの音をトリガーにハワイアンのサンプルをダッキングしているんです。2017年に自分が初めてこの曲を聴いたとき、「このやり方ならいけるな」と思ったのが、自分が考えるスティール・ギター+ローファイの原点です。感覚としては、ウワモノは古いレコードのようにつくって、それをリミックスしている感じに仕上げるというか。

あと、僕が持っているスティール・ギターは膝に乗せるタイプのラップスティール・ギターと呼ばれるものなんですが、他にペダルスティール・ギターというタイプもあって。こちらはラップスティールよりも弦が多くて、さらにペダルでボリュームをコントロールできる。音のアタックをペダルの操作で削ることもできるんです。僕はどちらかというとそちらの音のほうがシンセのパッドみたいで好きで。ダニエル・ラノワとか、アンビエントの人たちもペダルスティール・ギターを使っているんですが、幽玄な感じになっていますね。

向かって右がペダルスティールを演奏するダニエル・ラノワ。対するロッコ・デルーカはラップスティールを演奏している。

その「アタックを削る」というアプローチを、キックをトリガーにしたダッキングでやるスティール・ギターのプレイヤーはいないだろうなと思って。Instagramに演奏動画を上げているプレイヤーを見ていても、そんなことをやっている人はいないんですよね。ビートメイカーの人は「こんなにバッキバキにスティール・ギターをダッキングしているのはヤバいね」みたいな感じで、そこに一番反応してくれますね。

このスタイルに取り組んでみて、スティール・ギターの弾き方が変わったということはありますか。

スティール・ギターって普通ピックを指に嵌めて演奏するんですが、それを嵌めずに指弾きするようになりました。音色にローファイ感が出る、というのもあるんですけど、それは理由の3割くらい。残りの7割くらいは、それだと他の機器を並行して触るのに不便だからなんですよ。

なるほど!

パソコンを操作するのも不便ですし、演奏動画の撮影でも不便。オーディオインターフェイスに入力して、録音して、だめだったら弾き直す。そのための手間が、ピックがあることで何倍にもなるんです。スマホをタップしてスワイプするのにも向かないですし。最近はプレイヤー意識に目覚めてきたので、また嵌めるようにしていますけどね。

活動を後押しする、SNSを通じた新しいつながり

Instagramに演奏動画をアップロードしてみて気づいたことや、ご自身の中で変化したことはありますか。

突然コミュニティに飛び込んでも、面白いと思ったら見てくれて、反応してくれたということがうれしかったですね。最初にアップロードした動画に長いコメントをくれたのは、darumaというSpotifyの公式プレイリストにもセレクトされているようなビートメイカーでした。ハッシュタグを通じて見てくれたみたいで、「ハワイアンをサンプリングしたことはあるけど、スティール・ギターを実際に演奏しているのはすごいね」と。そういうコメントやリアクションが短期的な動機づけになって、結果として1年半くらい続けられています。SNSには依存しすぎてしまう悪い側面もありますけど、自分の場合は報酬系がうまく働いてくれていると感じます。

SNSを通じたリアクションがモチベーションにつながっているんですね。

そうですね。あと、長く続けようと思わせてくれたもうひとりに、アメリカ西海岸でインディーバンドのギタリストをしているTommy de Brourbonという人がいます。彼はペダルスティールも演奏するので、スティール・ギター繋がりでフォローしてくれたのかなと思うんですけど、アカウントをよくみたらTikTokのリンクもあって。見てみたら「ラップの曲にもしギターソロがあったら」みたいな動画で100万回以上再生されていたんです。それで、DMでそのことについて話したら「インターネットは何が起こるかわからないから、絶対にやり続けたほうがいいよ」と言ってくれて。確かにそうかもな、と。

@tdebourbon

Reply to @joelsimpsonn my most requested by FAR 🎸 drop more songs in the comments! #fypシ #guitarist #guitarsolo #guitartok #guitarcover #liluzivert

♬ original sound – Tommy de Bourbon

そうやって続けていると、クリエイター以外の人からも反応があって。有名なところだと『クレイジー・リッチ!』なんかに出ている俳優のAwkwafinaがいいねしてくれたり。「そこまで届くのか!」と。

Instagram以外のプラットフォームではいかがですか。

YouTubeは視聴専門の人が多い分、すごく長文で感想をくれるんです。Instagramでリアクションをくれるのは全員クリエイターという感じなので、「今回の、いいね!」みたいなライトなやり取りなんですけど、YouTubeだと、「わたしはこういう者で、こういう状況で聴いているんだけど、あなたの曲はこうだと思います」みたいなコメントがいっぱい届く。Instagramとは違った嬉しさがありますね。実は『Soothe Your Soul』というアルバム・タイトルをはじめ、このアルバムに収録した曲のタイトルはほぼYouTubeでもらったコメントの引用なんです。ハワイアンルーツの人で、おばあちゃんにもお母さんにも一緒に聞かせてシェアしている、というコメントをもらったり、ハワイ在住の人や、ネイティヴハワイアンの人からも反応があって。ネットを通じて、新しいコミュニティを作れている感じがありますね。

演奏動画はShorts形式でYouTubeに投稿している

beipanaさんは現在のスタイルに行き着かれるまでの活動歴も長いですが、今日まで音楽を続けてこられた理由って何だったと、ご自身では思いますか。

本当に、縁に恵まれていたように思いますね。活動自体は長いものの、多作なわけではないので。ようやくここ数年で、「毎週何かを作る」ということができる状況になったという実感があります。あとは、音楽はコミュニケーションでもあって、それがなくなれば失うつながりもありますから、だから続けているんだと思います。インターネットの存在も大きいですね。古くはmixiから、ソーシャルメディアを通じて生まれたつながりで活動が始まったので。音楽を通じてインターネットの文化の変遷みたいなものを見続けているところは一貫している気がします。

今後の活動のプランがあれば教えて下さい。

もうちょっと多作になりたいです。トミー・ゲレロみたいになりたいんですよ。DTMを駆使したプロデューサーの作品というよりも、ルーズな雰囲気のギタリストらしい宅録を、自分のペースでずっと作り続けたい。今回の作品で、その入り口をようやく作ることができました。あとは、演奏動画も続けられるだけ続けていきたいですね。

取材・文:imdkm

beipana プロフィール

ラップスティール・ギタープレイヤー。自ら演奏するレトロなスティール・ギターのサウンドとサンプリングやエレクトロニクスをミックスした独自のリゾート・ミュージックを奏でる。近年はSNSで『スティール・ギターの演奏+ローファイ・ビーツ』による、ハワイアンのカバー演奏動画を披露している。演奏動画のコンセプトをもとにした『Soothe Your Soul』を2022年にリリース。 https://linktr.ee/beipana