ラスマス・フェイバーのアルバム「Two Left Feet」
2019.12.03

ラスマス・フェイバーが語る、クリエイターが世界で戦うスキルを磨くために必要なこと(インタビュー 3/3)

音楽シーンにおいて「音楽ストリーミング」が存在感を示している現在、音楽制作の現場もテクノロジーの進化やツールの活用が激しく入れ替わっている。 

AIやアルゴリズムが音楽をレコメンドするようになり、リスナーの好みが常時変化するかつて無い音楽変革期において、現代のクリエイターは音楽作りにどう向きあえばいいのだろうか。 

音楽ストリーミングサービス「Spotify」を生んだ国スウェーデンから、世界のダンスミュージック・シーンに向けてユニークなアプローチを展開するプロデューサーのラスマス・フェイバーに、現代のプロデューサーやエンジニアはどこを見ているのか、デジタルツールといかに向き合うべきか、リスニング環境の変化に対してクリエイターは何を意識すべきか、じっくりと語ってもらった。

今回はトレンドとの関わり方、サウンドデザイン、そしてクリエイターがスキルを磨くためのアドバイスを語りつくす最終回をお届けします。

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テクノロジーの活用は、創作での制限を無くすための手段

音楽制作で普段から気をつけていることは何ですか?

クリエイティブプロセスの短縮化につながるから、制作のワークフローを改善することに努めている。具体的には、アイデアを思いついてからDAWを使って音楽にするまでのスピードを短縮するということ。

テクノロジーの活用は、創作における制限を無くすための手段の一つ。キーコマンドの設定や、MIDIコントローラーを駆使することで、反復作業に使う時間を減らすことができる。機材を操作する時間を減らせば、限られた時間内で満足度の高い作品が作れるはずなんだ。

クリエイターとして音楽的にどんなスタイルを追求したり、追いかけるかの見極めも重要かと思いますが、トレンドとはどのように向き合っていますか?

そうだね…正直なところ、「トレンドを追うか、追わないか」は、あらゆるクリエイターが直面する最も複雑な問いかけだよね。

僕は、その答えを見つけることは不可能だと思っている。クリエイターの思考も、社会の在り方や人との関係性と常に影響しあっているし、「直感に従うべきだ」と答える人もいるけど、それは単純過ぎる答えだと思う。クリエイターは、自分の作品が社会と関わることを目標としているわけだから。

音楽プロデューサーのRasmus Faber(ラスマス・フェイバー)

僕の場合は、シーンで何が起きているかを理解しながら、自分が好きなスタイルや音楽的要素をピックアップして音楽を作るように気をつけている。

トレンドを追うことから時には一歩離れて、トレンドとの距離感をバランスよく保つことが必要だと思うんだ。トレンドを追う時にも、意図的に追わない時にも大事で、距離感を自覚することで、創作活動を精神的に安定させることができると思う。

プロデューサー向けの掲示板で教えてもらえた

プロデューサーやエンジニアを目指す日本人に向けて、スキルを磨くためのアドバイスがあれば教えてください。

ネットから必要な情報を吸収したり、共有することは大事だね。特にプロデューサー向けの掲示板ラム、例えば「Gearslutz」「Logic Pro Help」のような掲示板で、他のプロデューサーに質問ができたことは、自分もとても勉強になったよ。

英語でのやり取りが少しできればすぐに参加できるし、例えばソフトの使い方で自分が悩んでいることなどをフォーラムに投げかけてみると、世界中の人とのやりとりのなかで問題の解決法が見えてくる。皆無償で教えてくれるし、学びの場所として重要だと思う。

加えて、こういう掲示板に参加することで、日本人プロデューサーも海外のプロデューサーやアーティスト・コミュニティーと繋がることができるとも思うよ。

ラスマスにも日本から質問できますか?

もちろん! 僕は比較的簡単に連絡がとれるタイプだと思うよ(笑)。世界中から色々な人が質問してくれるし、答えられる範囲であれば喜んで答えるよ。

「グレイ」のポップなサウンドデザイン

あなたにとってサウンドデザインとは、どんな意味がありますか?

僕にとってのサウンドデザインとは、例えば映画音楽のような、シチュエーションやフォーマット、ムードに合致しながらも、クリエイター独自のサウンドになっているデザインっていうことかな。特にエレクトロニックなサウンドの楽曲であれば尚更そう。そして自分としてももっと上手くなりたいものでもある(笑)。 

アコースティックなサウンドは大丈夫なレベルだと思うんだけどね(笑)、実は最近気づいたんだけど、自分のサウンドデザインを個性的にしている理由の一つは、アコースティックな楽器をエレクトロニックな要素とミックスして使う手法だと気づいたんだ。生演奏をループさせて使うところとかね。

シェイカーを生で録音して、それをループさせて使うだけでサンプルループを使うのとは違う雰囲気を作ることが出来る。これは皆にオススメしたいテクニックだね。

ストックホルムにあるラスマス・フェイバのスタジオ

因みにこの人のサウンドデザインは凄い、と思えるクリエイターはいますか?

少し前であればチップチューンの影響を受けたポップス、例えばヘイワイヤーやグラント・ボウタイみたいに繊細なサウンドデザインをするプロデューサーが好きだったし、あとはアメリカ人の兄弟デュオ・プロデューサー「グレイ」のサウンドデザインはとても素晴らしいと思う。

Heywyre – I Am You
Grant Bowtie – Cloud Nine
Grey – First Time (feat. Robinson) [Official Video]

グレイは若々しくも優れたサウンドデザインを実現していて、エンジニアとしても大変素晴らしいと思う。彼らのポップなサウンドデザインからはとてもインスピレーションを受ける。

スウェーデンのプロデューサーではどうでしょう?

代表的なサウンドは、トーヴ・ローのようなポップアーティストのサウンドかな。

Tove Lo – Habits (Stay High)

スウェーデンのプロデューサーや作曲家は、ダークでムーディーなサウンドデザインが得意な人が多い。ディストーションやリバーブ、ディレイの使い方などを駆使したミニマルなサウンドが、特有のプロダクションスタイルとして定着している。ベースとキック、そしてヴォーカルだけで表現するポップスというか。

1分でも長くクリエイティヴなことに時間を使おう

最後に、クリエイターになりたいと思っている人達へのアドバイスをお願いします。

今はクリエイターになるには良い時期だと思う。機材もそこまで必要ないし、例えばネット上のチュートリアルとかで独学できることも沢山ある。ただ、今の時代気をつけないといけないのは、他の事に時間をとられて、自分がすべきことに集中しにくい時代だということ。 

だから僕の1番のアドバイスは、1分でも長くクリエイティヴなことに時間を使おう、だね。

例えばYouTubeに沢山のチュートリアル動画がアップされているけど、ある時点まではとても参考になりつつも、ある時点からは時間の無駄にもなりえる。今この瞬間、自分が時間を使うべきことに時間を使っていけるよう見極めていかないといけない。難しいんだけどね。

基本的に、クリエイターであれば今何が自分に必要なのか、今自分は何をしなければいけないのは理解しているはず。実行するのは難しいけど、自分を律して、それらを実行しなければいけない。

“自分のクローンがいるとして、今そのクローンに何をさせるか?”を考えてみるといいかもしれない。すぐに答えは出るはずだし、自分から自分へのアドバイスを信じてみよう。

使いやすいサンプルやループは沢山あるかもしれないけど、クリエイティヴな個性を持ったクリエイターになるためには、何千という時間が必要だということを忘れないでほしい。

Writer : ジェイ・コウガミ
Editor:長谷 憲