
Watusi(COLDFEET)が語る、タイプビートなどの海外最新トレンド(インタビュー 2/3)
安室奈美恵や中島美嘉の作品を手掛け、自身のプロジェクト「COLDFEET」の作品が世界各国でリリースされるなど、国内外の第一線で活躍しているプロデューサー/ベーシスト/プログラマーWatusi。
先日、COLDFEET活動20周年を記念し新作アルバム『Core』をリリースしたばかりの彼に、制作環境の変化や海外マーケット、また新たなトレンドが生む新規ビジネスモデルなどについて語ってもらった。
今回は、海外のトレンドやビジネスモデルとの関わり方について語る第2回目をお届けします。
第1回はこちら:
「だれだれタイプ、なになにタイプ」というタイプビート
常にフレッシュでいるために、プロとして気をつけていることはありますか?
自分なりにですが 時代性を考えるようにして、これから作られる音楽は何か、というインスピレーションを得るようにしてます。月に1日、「ネタ掘りDAY」を設けていて。新譜はもちろん、誰かがSNSで薦めていたもの、レコード屋で気になったものなどをチェックする日なんだけど、その日はもう1日16時間かけて聴いている。

そうした曲達から、 どういうことが 半年後、1年後に起こるのかなんてのを勝手に膨らませてイメージして、「この曲は気持ちが一緒だ」「そう、こういうところだよね」という自分を見つけ続けたいと思ってるんです。
最近、音楽シーンで注目されている動きがあれば教えてください。
タイプビートだね。YouTubeで「Type Beat」と検索するとたくさん出てくるので見てもらいたいんだけど、分かりやすくいうと「だれだれタイプ、なになにの曲っぽいビートを売りますよ」ということ。

最近は制作費が低いので、ラッパーが売れっ子トラックメイカーにビートをお願いすることが難しい。でもどんどん新曲は作りたいし、こんなトラックで作りたいっていう要望もある。今やそれが買えるようになったと。
売られ方もインターネットの自由さを生かしていて、自分用に使うだけなら何十ドルというものから、値段は高くなるけどサンプリングCDのように永久に自由に自曲として使えるものまで、用途によって選べて、権利関係もクリアできる。
トラックメイカーにとっても、自分が作ったトラックがそうやって世界中の人たちに使ってもらえて、と同時に納得できる権利が得られて、ビジネスになってお金が入ってきたらこんなに嬉しいことはない。まだまだアメリカのヒップホップ/R&Bシーンを中心としたカルチャーだと思うけど、日本でもラッパーたちが注目して使い始めている。
ビートを使ってくれる人がいれば、使われただけお金が入ってくる
タイプビートのように海外ではオーディオサンプルやループが売られ、ユーザーはそれを買って自分の曲で自由に使うことが可能になってきています。クリエイターとして、そういう時代の到来についてどう思われていますか?
僕らトラックメイカーとかアレンジャーって基本は買取のビジネスだけど、それが変わりつつあるってことだよね。ビートを1つ作って、それを使ってくれる人がいれば、使われただけお金が入ってくる。自分の作ったどんな音にでも権利が発生するということには、たくさんのビジネスチャンスがあると思う。
また、そうしたインターネットの利便性を使った音楽ビジネスが活発になってくると、既存の原盤ビジネスの崩壊によって商売がままならなくなった音楽家にとっても機会が増える。
僕の周りにも、僕なんかより優れたアレンジャーたちがたくさんいるんだけど、残念ながら経済的な理由で故郷に戻っていたりして、ネット経由でやれる仕事だけならやるという人もいる。
そういうクリエイターも仕事をしやすくなるだろうし、音楽ビジネスが発注ベースではなく自分から立ち上げていくものに変わることで、自分の好きなこと、得意なことだけを選んで仕事とすることが可能になるんじゃないかな。
タイプビートは、ヒップホップ/R&Bシーン以外にも広がっていきそうな予感がしますね。
そう思う。そしてビートだけでなくてシチュエーションに合わせた「タイプミュージック」というのも考えられるよね。例えば「結婚式」「クロージング」「両親を泣かせる」というようなキーワードを入れると候補の曲が出てくるとか。
そこからさらに「ラテン調」みたいな絞り込みができたりね。映像につける音効も、シチュエーションで検索できると便利だね。今後は、ありとあらゆる音素材から曲までが検索できる時代になる予感もするね。
AIの技術も活用できそうな領域ですね。
音楽ジャンルって、意外とムードやイデオロギーの部分が取り沙汰されやすいんだけど、いまのAI技術で、例えばジャズといわれているものを1万曲、ディスコミュージックとされているものを1万曲……というように学習させていって、改めてジャズやディスコで検索したときに、出てくる結果が実は僕たちの思いもよらないものだったらそれも面白いよね。
一方で、アレンジは数学的な一面もあって。例えばメジャーキーでは、1メジャー、2マイナー7とか、数学みたいな用語でダイアトニックコードを覚えるし、もっと言うと時間軸の中でどう情報量を変化させて飽きさせない構成にするか、例えば、2番からストリングスが入ってくるとか、ハーモニーはだんだん増えていくのがいいとか、そういうものを経験を積み知識化して自分の言語としてアレンジしていくのがプロの編曲家の仕事だと思うけど、それをAIが学習したらどんなアレンジをするだろうか?
AI研究者・音楽企業家ピエール・バホー氏によるTED講演
それこそさっき言った「結婚式のクロージングでご両親を泣かせるコード進行」というようなものはすぐに出てきそうだし、そのためのエレクトリックピアノの音色まで選んでくれそう。
そういうことが可能になってきている。だからアレンジャーとかミュージシャンがいらないかというのとは別の問題で、学びとしての、ツールとしての可能性は感じるよね。
マルチトラックのデータを全部バラで売ってもいい
新しいビジネスモデルなど含め、今後はどのように変わっていくと思いますか?
インターネットによって音楽のビジネスモデルが崩壊したとよく言われるよね。音楽がデータになったことで「無料」に近づいていってしまったと。でも本来インターネットには売り方や買い方の自由度を上げてくれるというメリットもあると思う。
購買層も「好きな曲だけMP3クオリティで買えればいいや」という人もいれば「アルバム全体をCDクオリティのWAVで買いたい」という人もいる。
もっといえば「レコーディングに使った譜面や作業の様子をとらえた映像、すべてのテイクを収めたオーディオ・データを買ってレコーディングを追体験できるなら100万円出してもいい」という人がいるかもしれない。
実は僕は今、自分が手がけた楽曲のマルチトラックのデータを全部バラで売ってもいいなとも考えている。さらに言うと将来は、インターネットの自由さを存分に使って、音楽が欲しい人と権利を担保しながらも直接マンツーマンでやり取りすることさえ可能になるんじゃないかとすら思ってる。
日本の音楽家が世界に出て行くために必要な心構えについて語る最終回はこちらをご覧ください!
Writer : 北口大介
Editor:長谷 憲