
世界市場のストリーミングを収入に変える「ISWC」【独立系クリエイターのための音楽著作権HOW TO! Vol.2】
「独立系クリエイターのための音楽著作権HOW TO」は、多くのクリエイターが抱いている、著作権と印税とおカネに関するモヤモヤに真正面から向き合う、型破りで実践的な音楽著作権入門講座。ソニー・ミュージックエンタテインメントが、クリエイター活動を最新技術で支援する音楽制作(DTM)プラットフォーム「Soundmain」が、2021年にスタートさせたYouTube番組です。
第1回の模様はこちら:
2021年11月に配信された第2回のテーマは「世界で稼ぐ必須アイテム、ISWCって何?」。案内役として登場したのは、エンタメとテクノロジーの幸せな結びつきを加速させる“エンターテック・アクセラレーター”・鈴木 貴歩さん。レコード会社をはじめ、グローバルビジネスを行うコンテンツ企業にて、音楽配信売上の拡大、デジタルマーケティング、モバイルビジネスの立ち上げ、新規事業開発他の責任者を歴任してきた猛者で、言わば “デジタル戦略の鬼” です。

デジタルプラットフォーム上で手軽に自分の作品をグローバル展開できる今この時代、独立系クリエイターの“取りっぱぐれ”対策として、「ISWC」が強力な味方になってくれるかもしれません! クリエイターの “ヒトヤマ当てたい!” を応援する「音楽著作権HOW TO」vol.2の内容を、ダイジェストでレポートします。
ダイジェスト動画(まとめ)は以下から!
世界共通の楽曲背番号「ISWC」が、“取りっぱぐれ”対策に!
鈴木さんは自己紹介もそこそこに、柔らかな笑顔で「今、日本を除く世界では、音楽産業ってV字回復で成長しまくっていて、これからも伸びていくよねっていうコンセンサスが出来ているんですよね」と衝撃的な現実を投下します。やまださんは動揺した様子で「日本の音楽業界はみんな『CD売れなくて大変だ』と言ってますけど、世界では売上げが戻ってきてるんですか?」と質問します。
「そうです。もう、めちゃめちゃ戻ってるんですよ。しかも、グローバル市場における音楽ビジネスの62%は、ストリーミング配信から利益があがっている。つまり、メジャーなデジタルプラットフォーム5社で音源配信されていれば、世界にリーチできる。今は独立系アーティストも世界にアプローチしやすい時代だと思います。この時、再生されている楽曲とプラットフォーム上の楽曲データがマッチングしていないと、楽曲をつくった人達に印税が入らない、ということが起こってしまいます」(鈴木さん)
ダイジェスト動画:#1 数字ですぐ分かる☆世界の音楽マーケット!
https://www.youtube.com/watch?v=FQBzXCxt_RA

「また出た! マッチング!!」とやまださんがすかさずツッコみを入れます。「マッチング」は「音楽著作権HOW TO」vol.1でもキーワードの一つでした(Vol.1のレポートはこちら)。国際間の取引をスムーズにするためには、全世界で共通基準となるようなコードがあれば便利です。そこで、楽曲ごとに付与される世界共通の背番号「ISWC」=国際標準音楽作品コードの出番となります。
「今の時代、一般ユーザーによってつくられたコンテンツがYouTubeやTikTokなどの動画プラットフォームにアップロードされ、あっという間に数十万、数百万という再生回数になることも珍しくなくなっています。独立系クリエイターの方々には、是非ISWCを意識して頂きたいですね」(鈴木さん)
ダイジェスト動画:#2 ISWCは音楽データエコノミー必須アイテム!!
https://www.youtube.com/watch?v=RK_uY_MGxso

JASRACに作品登録して「ISWC」をゲット!
クリエイター代表として参加しているエンドウ.さんは、早速、自身の作品の登録状況が気になったようで「ISWCは、どうやったらもらえるんでしょうか?」と、鈴木さんに聞きます。すると、「JASRACに作品登録していたら、(ほぼ)自動的に付与されているはずです」との返答。“明細書の鬼” エンドウ.さんですが、これは意外な回答だったようで、驚きの表情です。
やまださんがJASRAC広報部の薬師寺さんに「じゃあ、JASRACとISWCはライバル関係とか、そういうことではないんですね?」と聞くと、「敵対関係とかでは無いです(笑)」との返答。JASRACなどの著作権管理団体は作品届を受領すると、ISWCの運用条件に合うものについては自動的に番号を取得しているそうです。例として、やまださんが作詞・作曲に名を連ねる楽曲「#NICORADI」をJASRACのデータベースで見てみると、きちんとISWC番号がされていることが確認できました。
ダイジェスト動画:#3 ISWC取得!どうすればイイの?
https://www.youtube.com/watch?v=YR6uXNQWcPY

鈴木さんからは、「独立系クリエイターの方々については、JASRACに作品を登録していない方も多いんですが、そうすると、もし世界で聞かれていても印税が発生しないので、是非作品登録して欲しいです」と強くオススメがありました。
一方、薬師寺さんからは現状について「まだまだ、マッチングの標準的なデータは、アーティスト名、作品名であり、ISWCが無いからといって全くマッチングされないということではないです」とフォローがありました。
「ただ、大きな流れとしては鈴木さんの仰る通り、ISWCでのマッチングに向かっています。これから出る楽曲についてはストックされていくものですので、是非取得をしていって頂きたいですね」(薬師寺さん)
著作者名も楽曲名も重複しまくる、マッチングの過酷な実態
鈴木さんからは、グローバル市場のなかでISWCを取得するメリットについて「英語圏のアーティストではないからこそ」という視点についても紹介がありました。
「日本語楽曲や日本名というのは、海外の人から見ると文字を読むことも難しい。マッチングするにしてもなにがなにやら、ということが実際にあるんですよね。もし作家本人から利用されている申告があったとしても、申告されたデータと、データベース上のスペルが一致していないと、確認が大変です。ISWCコードであれば、そういう心配が一切ありません」(鈴木さん)

これにはやまださんも「パスポートのローマ字表記ですら、微妙に表記が異なっていたりして問題になりますもんね。日本語だったらろくに調べてもらえていない可能性はありますよね」と、納得した様子。自身の楽曲名「#NICORADI」についても、冒頭の「#」という記号が無かったり、「NICO」が「NIKO」と間違えられただけでマッチングしなくなると聞き、共通コードの大切さが実感できたようです。
JASRAC薬師寺さんからも、もう一つの視点として「重複」が提示されました。「『#NICORADI』という楽曲名は、なかなか他とかぶらないタイトルだと思いますが、楽曲名や作詞・作曲家名が重複する、ということは充分考えられるんです。例えば『LOVE』という楽曲名、楽曲データベース上にどのくらいあると思いますか?」ちなみにJASRACに登録されている管理楽曲数は、2021年3月末時点で約460万曲です。

「答えは、約1,100曲です。楽曲名だけでマッチングすることが到底不可能であることは、お分かり頂けますよね。ちなみに、エンドウ.さんやeNuさんのお名前も、同じ読み方や似ている表記での著作者名が5~6人は見つかります。そうすると『あれ?これはどのエンドウさんのLOVEだ?』ということになってしまうんです」(薬師寺さん)
やまださん、eNuさんが「そりゃあマッチング、難しいわ」と遠い目をしながら納得している中、エンドウ.さんが涼しい表情で「そんな“もらい損ねそう”な楽曲名、絶対付けないですけどね(笑)」と発言。一同が爆笑するシーンも。世界の管理楽曲は7,000万管理楽曲ですから、「グローバルな背番号」のメリットは計り知れません。
ABBA「ダンシング・クイーン」が、ISWC No.1のワケ
「ちなみに、ISWCの1番って、あるんですか?」という、やまださんの問いに、鈴木さんが「多分、皆さん知っている楽曲だと思いますよ」と返答。驚いた表情のやまださんに、明かされた回答が、こちら。

「1995年に本格稼働したISWCの最初のナンバー “T000.000.001-0” は、ABBAの『ダンシング・クイーン』に割り当てられました。ABBAのメンバーであり作曲を担うビョルン・ウルヴァース氏(Björn Ulvaeus)は、音楽産業の現代化や、作詞作曲に貢献したメンバーへの貢献を記録して適正に対価を還元する重要性などについて、当時から積極的に発言をしてきていたんです。そういう意味では、エンドウ.さんの立場にちょっと似ているかもしれませんね」と鈴木さん。
ISWC本格稼働の契機となったのは、CDを始めとしたメディアなどの登場で音楽が本当の意味でグローバルに流通するようになったことが挙げられます。ここで改めて、ABBAというアーティストが、「英語圏」では無く「スウェーデン語圏」のアーティストであることが思い起こされます。ビョルン(Björn)というスペルでのマッチングの困難さなどを想像してみると、世界的なメガヒットアーティストが、ちょっと身近に感じられるかもしれません。
ダイジェスト動画:#4 世界基準のISWCを整えてグローバルな活躍を狙う!
https://www.youtube.com/watch?v=7zq50fB3re0

前回に引き続き、型破りすぎる程に実践的な内容が満載となった「独立系クリエイターのための音楽著作権HOW TO」。クリエイター代表であるeNuさんは「難しい話が並んでいるのかと思いきや、今後もどんどん知っていきたいと思える内容だった」とコメント。アニメやゲーム関係の楽曲はグローバル市場でも求められていますから、まさに“自分事”の内容だったようです。
エンドウ.さんは「ISWCというのは、自分に関係無いと思っていました。でも今日の話を聞いて、まだまだ“取りっぱぐれている”可能性があることが分かった。またかき集めに走らなきゃいけないですね!」と、熱い意欲を示して番組の締めとなりました。
構成・文:かのうよしこ