2022.02.01

サンプルパックを個性的に使うには? ビートメイカー・xngb2インタビュー【サンプルパックとヒップホップ 第4回】

Soundmainでも販売しているサンプルパック。音源素材がワンショット(ドラムやシンバルなどの短い一音単位の音)やループ(リズムパターンの一定の繰り返し)といった単位でまとめられており、ヒップホップシーンで発達した制作手法「サンプリング」を身近なものにしてくれます。

そんなサンプルパックとヒップホップ音楽との関わりについて紐解く本連載。音楽ブログ「にんじゃり Gang Bang」を運営するアボかど(@cplyosuke)さんによる執筆です。

気鋭のビートメイカー・xngb2が鳴らすサウンドの秘密を求めて

サンプルパックの存在は前から知っていたんですけど、みんなが使っているものを使っちゃうと音も一緒になりそうなイメージがあってずっと使っていなかったんです。でも、ネットに転がっている音を使うのに限界を感じてきて使い始めたらけっこう良くて。最初に持っていたイメージは関係ないなと今では思います。

サンプルパックについてそう語るのは、奄美大島出身で現在は東京を拠点に活動するxngb2(ザンギビーツ)。人気プロデューサーのKMが審査員を務めるオンラインビートコンテスト「Roland presents KM BEAT CYPHER 2021 supported by OTAIRECORD」でも決勝の16人に名を残した気鋭のビートメイカーだ。

xngb2のライブパフォーマンス(2020年)

xngb2の音楽性は、ノイズやワブルベースといったヒップホップではあまり聞かないような音をJ Dilla系譜のよれたブーンバップの形に落とし込んだもの。福岡を拠点に活動するプロデューサーのOLIVE OILが率いるOIL WORKSから昨年末にリリースしたアルバム『One Sonido Apuesta』では、他ビートメイカーとの共作やラッパーの客演で他者のフレイバーも取り入れつつ、その情報量の多いユニークなスタイルを強烈に提示していた。その刺激的なビートはどうやって作られているのか。どのようにサンプルパックを使ったら人と被らない個性的な音を鳴らせるのか。「ヒップホップとサンプルパック」第4回では、そのビートのルーツとサンプルパックの活用方法についてxngb2にインタビューを行った。

「エグい音」使いはヒップホップ外のジャンルから

xngb2のヒップホップとの出会いは、意外にもフリースタイルバトルだったという。

中学3年の時にフリースタイルバトルがクラスで流行っていたんです。クラスの人気者が流行に乗ってラップを始めたのをきっかけに、その取り巻き20人くらいも一緒にラップを始めたんですよ。その一人が僕だったんです。

と当時を振り返る。そして、そのラッパーとしての活動はビートメイクにも繋がっていった。

ビートメイクを始めたのは5年くらい前です。ラップをやっている時に自分のビートが欲しくなったのがきっかけですね。ヒップホップを知る前からヒューマンビートボックスをやっていたこともあって、音を作るのは好きだったんです。それでビートを組みたいと思って、冬休みを使ってバイトしてMPCとパソコンを買いました。

こうしてビートメイクを始めたxngb2だが、最初は現在とは異なる方向性だったという。

ビートを作り始めて最初の一年間くらいはローファイ・ヒップホップばかり作っていました。そういうレーベルにも一瞬入っていましたよ。

と語る。現在作っているビートにも、よれたグルーヴなどローファイ・ヒップホップ的なテクニックは使われている。だが、ローファイ・ヒップホップのリラックスした音像は現在鳴らしている音とは正反対のように思える。一体、何がきっかけで現在の作風に変化したのかを聞いた。

僕の父親がバンドでベースを弾いていて、家でハードロックやメロコアが流れていたんですよね。一瞬入ったローファイ・ヒップホップのレーベルと揉めて、そこからメンタルをやられてローファイ・ヒップホップを聴かないようにしようと思って一度シャットアウトしたんですよ。それで幼稚園の時に聴いていたTHE MAD CAPSULE MARKETSというバンドを聴き直したんです。シンセやベースをグチャグチャに鳴らしているバンドで、それを聴いて初期衝動が全部変わってきたんです。『こういうエグいことの方が好きだわ』ってなって、エグい音をめちゃくちゃ出したくなりました。要は、グレたってことですね(笑)。

こうして現在の作風に転換していったxngb2。しかし、サウンドは大きく変化したが手法的にはローファイ・ヒップホップを作る時と同じくサンプリングがメインだという。

サンプリングと弾きだったら9対1くらいですね。ネタは多分、ローファイ・ヒップホップを作っているようなビートメイカーとあまり変わらないと思います。普通に昔のソウルやR&Bも使うし。でもここ1~2年くらいは実験音楽やメタル、J-POPなども使っています。

とその手法を話す。音の加工について聞くと、

グリッチ系のプラグインを通してグチャグチャにして、それをまたリサンプリングして切ります。

と答えてくれた。ローファイ・ヒップホップをルーツに、THE MAD CAPSULE MARKETSのような「エグい音」を目指す。xngb2のユニークな作風は、そんな経歴が生み出したものだった。

日本のビートメイカーからの学び、島出身ならではの環境音のサンプリングも

xngb2に「史上最高のビートメイカー」を5人挙げてもらった。

まずはOLIVE OILさん。僕がビートミュージックを知ったきっかけはOLIVEさんだったんですよ。中3か高1くらいの時に知り合いのDJから教えてもらって、そこからずっと影響を受けています。あとはSIMI LABのHi’Specさん。よく『OMSBさんじゃないんだ』って言われます(笑)。あとはRamzaさんとCRAMさん。あとdhrmaさんですね。僕は日本のビートメイカーからだいぶ影響を受けました。

xngb2の出身地である奄美大島の隣、徳之島出身のOLIVE OILからの影響は特に大きいという。

OLIVEさんからは環境音の使い方を学びました。OLIVEさんは島にしかない音やお祭りの音を使うんですよ。環境音を録ってビートに活かすのが面白いなと思っています。

と影響を受けたポイントを話してくれた。また、サンプリングするネタの幅広さはCRAMから学んだそうだ。

サンプリングのネタはいいと思ったらジャンルを越えてなんでも使うのは、CRAMさんから影響を受けています。自分でOKだと思うラインを狭めないというか、ダサいネタでも自分のやり方で格好良くなるみたいな姿勢というか。

OLIVE OILの新作より、韓国のピアニストCHANNY Dとのコラボ作品

CRAMの新作(matatabiとのスプリット・ビートテープ)『LOOPER』

また、ビートメイカー個人ではないが、かつて東京で行われていたビートメイクイベント「EN TOKYO」からの影響も大きかったという。 EN TOKYOは集まったビートメイカーたちが半日かけて中古レコードを買い漁り、その後すぐにビートメイクを行うというもの。先述したCRAMのほか、昨年CRAMとスプリットでビートテープ『LOOPERS』をリリースしていたmatatabi(同作で使用されたドラムを使ったドラムキットも販売中)、現在MimeやPEARL CENTERといったバンドでも活躍するTiMTらが参加していた。xngb2は

地元が遠くて現場には行けませんでしたが、EN TOKYOはYouTubeでめちゃくちゃ見ていました。EN TOKYOの人たちが作る、クオンタイズされていないビートにはかなり影響を受けました。例えば三拍目にスネアが来るはずが、2.9で入るみたいな。機械的じゃない感じがするんです。

と、その存在の大きさを強調していた。現在は独自の方向性を突き進むxngb2だが、そのビートメイクの基礎となったのは日本のビートメイカーたちから影響だったのだ。

「EN TOKYO」Vol.3の様子(2014年)

サンプルパックを使うと他人と被るかも? は「杞憂」

サンプリングによるビートメイクから出発したxngb2だが、一年ほど前からサンプルパックの使用を始めたという。人と同じ音になってしまうことを恐れてずっと使っていなかったそうだが、いざ使い始めてみたらそれは杞憂だったと話す。

グリッチや8ビットなどの僕が普段使っている音って、ほかのビートメイカーと被らない音なんですよね。僕はそこから加工するので結局また変わりますし。今ではビートメイクを始める時には、FL Studioを開く前からサンプルパックのアプリを開いています。今回リリースしたアルバムでも全曲でサンプルパックから引っ張ってきた音を使っていますよ。

中でも「Digital Murder」はサンプリングを一切使わず、サンプルパックの音とFL Studio標準のシンセを少し弾いて作ったという。xngb2は

こういうサンプリングなしでも胸を張って人に聴かせられるビートが増えたように思います。それはサンプルパックを使う前にはなかったことですね。

と話す。人と被らない音を探し、それを加工して個性的なビートを生み出す。xngb2のサンプルパックの使い方からは、既存の楽曲からのサンプリングで名曲を生み出してきたビートメイカーたちと重なる部分が見えてくる。

普段使うことが多いサンプルパックについて聞くと、

大体「experimental」って書いてあるものを使っています(笑)。まとまっている系は使っていなくて、単音で引っ張ってくることが多いですね。スネアはダブステップ系が多いです。

との答えが。また、xngb2は制作だけではなくSP-555を使ったビートライブも行っており、

ライブ用にSP-555に入れるSEもサンプルパックから拾ってきた音ですね。(その場でファイル名を見て)名前は「Left Field Bass」って書いてあります。

とその制作に留まらないサンプルパック活用方法を明かしてくれた。

サンプリングで得た経験を活かしてサンプルパックを使い、ほかのビートメイカーとは異なるアプローチでユニークなビートを生み出すxngb2。最後に、自身のサンプルパック制作など今後の予定を聞いた。

そうか、サンプルパック作れますね。僕しか使わないと思うのでその予定はありませんが(笑)。需要があれば、使う価値ないような音ばかり入れようかと思います。作品については今年個人でのリリース予定はありませんが、年上のビートメイカーの人とスプリットでのビートテープをゆっくり作っています。出し過ぎも良くないとここ2年くらいで思っていて、個人で作品を出すなら一発一発をヤバいものにしたくて。あとは僕がやっている自主レーベルにGoodtenっていうラッパーの後輩がいて、そいつとのユニットでのアルバムを来年くらいに出せたらいいですね。あと音楽とは関係ないですが料理本を出したいです。

文:アボかど

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