TracklibのCEOであり共同創設者のPär Almqvist(パール・アルムクヴィスト)
2019.11.12

「Tracklib」CEO直伝!サービスを使ってサンプリング処理をするには(インタビュー後編)

サンプリング可能なオリジナル楽曲を提供する、スウェーデン発の音楽スタートアップ企業「Tracklib」。

2018年4月に正式ローンチ後、現在既に200ヶ国以上の音楽プロデューサーが利用している本サービスですが、最近では「ヒップホップ・ソウルの女王」として名高いメアリー・J・ブライジの2年ぶりの新曲でも本サービス経由でサンプルがクリアランスされていたりと、著名アーティストの作品にも使用されているサービスとなっています。

今回、SoundmainではCEOのパール・アルムクヴィスト氏にインタビューを実施。後編ではサービスの使い方を丁寧に説明してもらいながら、サンプリング・ミュージックの未来について語っていただきました。

前編は以下より。

サンプリングによるポジティブな好循環

日本のクリエイターにもTracklibを使ってみたい人は多いと思いますが、使い方がわからないという人も多いと思います。サービスを利用する基本的な流れを教えてもらえますか?

とても簡単に使えますよ。まず楽曲の検索ですが、色々なキーワードで検索することが可能です。例えばBPM、発売年、楽曲のキー、またパートの種類でも探すことができますし、マルチトラックが存在するかについても検索することができます。

例えば「R&Bやソウルといったジャンルで、1965年から1976年の間にリリースされていて、キーはAマイナーでヴォーカルもの」という条件で詳しく探すこともできるんです。

商業利用する場合は別途Tracklibとの契約が必要

ユーザーが使いたい楽曲を検索できた後はどのような流れなのでしょうか。

使ってみたい楽曲の音源ファイルやマルチトラックは、2ドルで購入することができます。購入した音源ファイルは、ご自身の制作環境で好きなように使うことができます。音源ファイルからサンプリングされたサンプルは何度でもループすることができ、タイムストレッチやピッチシフトなど、自由にクリエイティヴに加工しても大丈夫です。

分配率の算出基準はオリジナル原盤からトータルで何秒サンプリングしているか

そして、サンプルを使った新曲を商業利用したい場合、商業利用するための申請をしてもらいます。我々とのサンプリング・ライセンス契約は、全世界が対象で、永続的に有効です。

契約に基づいてライセンス使用料を支払ってもらいますが、金額は、使用した楽曲のカテゴリーで設定されています。例えばAカテゴリーの楽曲であれば2,500USドル、Bカテゴリーは500USドル、Cカテゴリーであれば50USドルです。因みにTracklibの楽曲の90%はCカテゴリーに入っています。

Tracklibのライセンス使用料

加えて、新曲をリリースしたときに発生する収入の一部をロイヤリティーとして分配していただきます。分配率は、楽曲をサンプリング音源として利用した素材の長さによって違ってきますが、これもウェブサイトに記載されていますので、事前に確認することが可能です。

例えばCカテゴリの楽曲を2秒以上15秒以内利用した場合、分配率は10%になります。分配率の算出基準は、オリジナル原盤からトータルで何秒サンプリングしているか、です。

例えば、オリジナル楽曲の気に入ったドラム・グルーヴを、5秒くらいサンプリングしたとして、同じオリジナル楽曲の別の場所を数秒サンプリングして使ったとします。2箇所サンプリングしていますが、トータルで15秒未満ですので、15秒未満の条件が適用されます。

Tracklibの分配率

カテゴリーAとBの楽曲を使用した場合に支払われる使用料は、将来分配していただくロイヤリティーの前払い金として見なされますので、ロイヤリティーの積算額が支払い済みの使用料を超えたタイミングで、追加した分を支払っていただきます。ただし映像と一緒に音楽が使われるシンクロ利用から発生するロイヤリティーは前払い金の相殺に充てることはできません。

最近申請方法が「License 2.0」にアップデートされましたが、前のシステムとの違いを教えてもらえますか?

以前のシステムとの大きな違いは、新しく作られた楽曲の登録、契約書の内容の確認、管理団体に登録しているかどうかの確認、販売網の確認といった、申請に必要な各項目をひとつひとつユーザーと一緒に確認していく流れになったことです。

登録していただいた情報に基づき、サンプリングがクリアになった場合は「ACTIVE」、情報が不完全の場合は「INCOMPLETE」など、自分の楽曲のステータスがすぐにわかるようになっています。

著作権管理団体への登録が必要

Tracklibとの契約以外にも管理団体への登録が必要になるわけですね。

そうです。ユーザーに登録してもらう権利には2つあります。1つ目は、原盤の権利(著作隣接権)を管理団体に登録してもらいます。そうすると楽曲が放送された時、オリジナル楽曲のレーベルそして演奏家に使用料が入る流れができます。

この登録をしないと、かなりの金額を失うことになるんです。例えばアメリカでは、SoundExchangeという組織に登録してもらいます。

話が逸れますが、アメリカで演奏したり、曲がオンエアされている日本人アーティストであれば、隣接権の登録を怠っていると、かなりの収入を受領できていない可能性があります。ですので、サンプリングをするしないに拘わらず、原盤の権利は著作隣接権管理組織に登録した方がいいと思いますよ。

2つ目は、詞・曲の権利、すなわち著作権の登録です。因みにTracklibで提供している楽曲は、サンプリングについて既に許可を得ている楽曲です。

日本でいえばJASRAC、イギリスのPRS、そしてアメリカのASCAPやBMIなどの管理団体に楽曲を登録してもらいます。オリジナル楽曲を含んだ新曲の作詞者、作曲者、出版社を正しく登録してもらうことで、著作権収入がオリジナル楽曲の権利者、そして新曲の権利者に正しく分配されます。

この著作権についても、サンプリングするしないに拘わらず、ご自身の作品は管理団体に登録しておくべきだと思います。最近は自分で音楽をリリースしたり、自分で楽曲管理をする人達も増えてきたと思いますが、著作権を管理団体に登録するのを忘れてしまう人がいたりします。登録するのはとても複雑なプロセスですしね。

ということでユーザーは、原盤の権利を著作隣接権管理組織、楽曲の権利を著作権管理団体に登録してもらえれば大丈夫で、我々もユーザーが正しく登録ができるようにガイドを作成しサポートしています。

権利登録などで、クリエイターがわからないことなどあった場合サポートは受けられるのでしょうか?

はい、AIではなく実在するサポートスタッフがサポートします(笑)。時には教育者のような立場でユーザーをサポートしてくことも、我々の大事な仕事だと思っています。 分かりやすいガイドも作成していますし、ガイドを確認してもわからないことなどがあれば、いつでも我々のサポートに連絡していただいて大丈夫です。

リミックス・バージョンも制作可能なのでしょうか?

可能ですよ。新曲を作る際にサンプリングした素材以上にサンプルを使っていなく、またリミックス・バージョンについても著作権、著作隣接権の管理団体への登録をしてもらえれば、オリジナル・バージョン同様に商業利用することができます。

分配すべき収入や報告はどのようにすればいいのでしょうか?

著作権・著作隣接権の管理団体から分配される使用料については、Tracklibそしてオリジナル原盤・楽曲の権利者が管理団体から直接支払いを受けますが、ユーザーが受け取る原盤収入、例えば新曲がデジタル配信された際などの収入については、年2回報告してもらっています。

ライセンス契約の条件と原盤の収入をベースに、分配額を報告・支払をしていただきます。我々は、分配していただいた金額を元に、オリジナル原盤の権利者に対して分配します。

サンプリングを通じて音楽の歴史を次の世代に伝えられる

細かく説明してくださり有難うございました。将来のお話をお聞かせいただけたらと思いますが、将来Tracklibはどういうサービスになっていくのでしょうか。

今Tracklibは3つのことに取り組んでいます。1つ目は、当然ながら素晴らしい音楽を引き続き増やしていくことです。日本の音楽はもちろん、世界中の様々な曲をユーザーに提供できるようにしていきたいと思います。

2つ目は、よりインタラクティヴな体験をサービス上で築くことです。現在、新しいサウンドプレイヤーの開発を頑張っていまして、これが完成すると、よりサンプリング素材を見つけやすくなると思います。

3つ目は、ハードウェアとソフトウェア会社とのコラボレーションを通じて、Tracklibをより多くの人々に提供し、さらにアクセスしやすくすることです。

最後に、日本のクリエイターへメッセージをいただけますか?

日本のクリエイターの方々に改めてお伝えしたいのは、Tracklibはクリエイターであるあなた方のために作られた、合法的且つ手頃な価格で簡単にサンプリングできるサービスだということです。

既存するオリジナル楽曲にとっても全く新しい機会をもたらしますし、オリジナル楽曲の作詞家、作曲家、プロデューサー、アーティスト達は、これからヒットする新曲を作る原動力となり、新曲から収入を得られるだけでなく、新曲を通じて音楽の歴史を次の世代に伝えていく立場にもなれるのです。

この音楽教育という側面含め、サンプリングのポジティブな好循環を引き続き提供していきたいと思っています。

TracklibのCEOであり共同創設者のPär Almqvist(パール・アルムクヴィスト)

取材・文:Soundmain編集部