
ラスマス・フェイバーが語る、ストリーミング・サービスが音楽制作へ及ぼした影響(インタビュー 1/3)
今、自分のクローンに何をさせる?
音楽シーンにおいて「音楽ストリーミング」が存在感を示している現在、音楽制作の現場もテクノロジーの進化やツールの活用が激しく入れ替わっている。
AIやアルゴリズムが音楽をレコメンドするようになり、リスナーの好みが常時変化するかつて無い音楽変革期において、現代のクリエイターは音楽作りにどう向きあえばいいのだろうか。
音楽ストリーミングサービス「Spotify」を生んだ国スウェーデンから、世界のダンスミュージック・シーンに向けてユニークなアプローチを展開するプロデューサーのラスマス・フェイバーに、現代のプロデューサーやエンジニアはどこを見ているのか、デジタルツールといかに向き合うべきか、リスニング環境の変化に対してクリエイターは何を意識すべきか、じっくりと語ってもらった。
今回は、音楽ストリーミングが音楽制作へ及ぼした影響について語る第1回目をお届けします。
日本の読者に簡単な自己紹介をしていただけますか?
僕はスウェーデン出身の音楽プロデューサー。幼い頃にピアノを始めて、10代の終わりにはセッション・ミュージシャンやツアー・ミュージシャンとして音楽の仕事をしていた。
そして20代前半にハウスミュージックと出会って、初めて自分名義でリリースした「Ever After」や「Get Over Here」がハウスシーンでヒットした。これがキッカケで、セッション・ミュージシャンなどの仕事はストップして自分の作品に注力するようになったんだ。
同時にDJとしても活動を始めて、今でも色々な国でプレイさせてもらっている。あと最近では、日本のアニメのオープニング曲や劇中音楽を手掛けていたりと、あらゆるジャンルのプロデュースや楽曲制作に携わっているよ。
ストリーミングによって、好きな曲を作りやすくなった
今回は、グローバルで活躍するプロデューサーに、プロダクションやサウンドデザインの観点で、現在の制作環境や、取り巻く問題意識、今後の方向性について語ってもらうということがテーマですが、まず大きな疑問としてあるのは、過去数年に渡る音楽ストリーミングの影響についてお聞きしたいです。
Spotifyは僕が住むスウェーデンから生まれたサービスだから、僕の答えは少し偏ってるかもしれないけど(笑)、Spotifyなどの音楽ストリーミングサービスは、クリエイターの世界に前例のないほどの影響を与えているよね。
例えばアルゴリズムがリスナーに与える影響。これまでリスナーは音楽を選ぶ時、好きなアーティストをアルバム単位で買っていたけど、アルゴリズムの世界では聴いた曲が好きな音楽としてAIに認識されるから、曲単位のレコメンドに変わってくる。
また、音楽ストリーミングが人気となったことで、ヨーロッパではローファイな質感のエレクトロニック・サウンドや、スローテンポなチルアウト・トラックの需要が増えているんだ。トロピカル・ハウスとかも同じだったけど、こういうサウンドはBGM的に使いやすいから再生数も伸びやすい。
クリエイターとしてのプロダクション面では、どのような影響を感じていますか?
音楽ストリーミングはジャンルやスタイルの縛りを緩くしてくれたと思うんだ。縛りが緩く感じられる分、クリエイターは昔に比べて自分が好きな曲を作りやすくなったと思うし、実験的にもなれる。
次に人気が出そうなジャンルを予測するのが難しくなったけど、シーンに同じような曲が蔓延しないし、良い影響だと思う。
自分でも「こんなスタイルの曲が人気なんだ!」と驚くこともあるし、ジャンルレスに創作するモチベーションが上がったんじゃないかな。でも、プレイリストに入れるためにレーベルから「ダウンテンポ系のリミックスを必ず1つは作ってくれ」って言われることはあるかもしれないけど(笑)。
ジャンルをまたいで活動するプロデューサーが増えている
ヨーロッパのプロデューサーの間では、楽曲作りのアプローチに変化はありましたか?
今はトレンドを追うのではなく、サブジャンルで作品をリリースをする流れがあると思う。ダウンテンポ・ポップや、ハウスシーンで言えばディスコ・サウンド、ネオソウルに影響されたハウスミュージックが多数リリースされている。
これらが新しいスタイルのサウンドとして聴かれていたりするし、複数のジャンルをまたいで活動するプロデューサーが増えていると思うよ。
こうやってクリエイターの創作活動が多様化していることは、リスナーにも多くの選択肢を与えてくれる。サブジャンルを増やすことでサブカルチャーが広がって、新しいトレンドが生まれやすくなるんじゃないかな。
作品をリリースすることに対するストレスが減った
そして音作りだけでなく、音楽をリリースするアプローチにも変化がある。
以前は作品と作品の間隔を空けるなど、リリース・スケジュールが管理されていた。このやり方では、創作期間中やリリース前に音楽のトレンドが変わってしまうかもしれないから、リスクが伴うよね。
でも今は、リリースのタイミングを自分で決めることができるし、トレンドも多様化しているから、特定のトレンドに合わせた作品を作らないといけない、という心構えがいらなくなってくる。結果、作品をリリースすることに対するストレスは減ったんじゃないかな。
多くのクリエイターが自分たちでデジタル・ディストリビューターを使って作品を配信するようになったから、リリースのタイミングや回数をクリエイター自身が管理できるし、それは精神的にも良いと思うよ。
制作環境や音楽制作のプロセスの変化についてラスマスが語る第2回はこちらをご覧ください!
Writer : ジェイ・コウガミ
Editor:長谷 憲