2021.12.17

ケンモチヒデフミ インタビュー(後編) 多彩なプロデュースワークから見える「自分のモノサシで1番を取りに行く」ことの大切さ

水曜日のカンパネラのメンバーとして、また「Kenmochi Hidefumi」名義でのソロ活動、xiangyuのプロデュース、多数のアーティストへの楽曲提供など幅広く活躍するケンモチヒデフミへの取材が実現した。

00年代にはNujabes主催の〈Hydeout Productions〉よりインストゥルメンタル楽曲のアルバムをリリースしてきたケンモチは、2012年に始動したポップユニット「水曜日のカンパネラ」のメンバーに参加し、作詞・作曲・サウンドプロデュースを担当。先鋭的なトラックとオリジナリティあふれるリリックを融合させた独創的な音楽性を確立し、中毒性の高い楽曲を多く生み出してきた。

2021年11月には水曜日のカンパネラに2代目ボーカリストとして新メンバーの詩羽(うたは)が加入し新たな活動がスタート。他にも2019年から久々に復活させたソロではジューク/フットワークを旺盛に取り入れ、xiangyu、希来里パイ、femme fatale、電音部など、多数の様々なプロジェクトに携わっている。前編につづき後編では、コロナ禍において「現場」が消滅したからこそ出会えた新たな音楽や、最新テクノロジーとの向き合い方などについてお話を伺った。

楽曲提供・プロデュース時のスタンス

ケンモチさんは水曜日のカンパネラやxiangyuさん以外にもいろんなアーティストに楽曲提供をされることも多いですが、その際にはどのような形で楽曲を作ることが多いですか?

歌い手さんやアーティストの方とまず話をすることが多いですね。「どういうことをやりたいですか?」とか「どういうイメージがいいですか?」とか「最近ハマってることは何ですか?」とか、そういう雑談から「この人に何が合うのかな」ということを考えます。そこから何曲か今ある曲や参考曲を出して「こういうのはどうですか?」と提示したりして、そこから「イントロはこの雰囲気がいい」とか「サビはこっちがいい」とかいろんなところをツギハギして設計図を作る。そういう形で作り始めることが多いです。

DISH//「星をつかむ者達へ」
femme fatale「Cupid」

カンパネラとかxiangyuの場合はほぼ僕が作っているので、(それぞれのプロジェクトの中で)今までやってないことをやろうという感じなんですけど、はじめましての方との場合は、最初にケンモチっぽい作風を求められているのか、それとも全く新しいものを生み出す化学変化みたいなものを求められているのかを意識して探ったりしますね。

現在の作業環境的はどういった感じなのでしょうか?

今はほぼPCベースになっていて、Ableton Live 11を使っています。

作風としては、どういうところが自分のサウンドのシグネチャーになっていると思いますか?

奇妙なラップ感とか、コード進行とか、よく使ってる音色とかですかね。あと変な声ネタはよく入れるので、そこもあります。最初は多めに入れておいて「この声ネタを外してくれ」と言われたら外すし、何も言われなかったら残すというのがありますね。

曲作りの前段階でストックしている声ネタがたくさんあるんでしょうか?

そうですね。ジュークやフットワークに声ネタのチョップ素材を使うので、それを始めた段階で変な声ネタのサンプルはたくさん買いました。きっと何かに使えるぞって。普通の人だったら使わないであろうサンプルを、普通の歌モノに混ぜちゃうというのが、変で面白いなと思っています。ただ単に僕が思ってるだけの面白さかもしれないですけど(笑)。

「現場」のないインターネットミュージックシーンの面白さ

ケンモチさんがここ数ヶ月で興味を持っているジャンルやビートに関してはどうでしょう?

2年くらい前までは新しいビートミュージック、ベースミュージックを探そうというモードだったんですけど、コロナ禍になってクラブとかライブイベントが無くなったのもあって、あんまりダンスミュージックが入ってこなくなっちゃったんです。自分の心の足が止まって、あんまりそんなにベースは鳴らなくていいかなと思うようになってきて。その代わりに、去年にバンダイナムコさんで『電音部』というプロジェクトに携わらせてもらったことをきっかけに、同じく参加されてるサウンドプロデューサーの方の音楽を聴くようになったんです。

電音部「港白金女学院」に提供した「いただきバベル (Prod. ケンモチヒデフミ)」

いわゆるネット界隈のクラブカルチャーってリアルなクラブカルチャーとまた違った独自の進化をしてるじゃないですか。あれがすごく新鮮で。YunomiさんとかPSYQUIさんとか、KOTONOHOUSEさんとか、それぞれめちゃくちゃポップな音楽なんですけど、普通のクラブシーンからしたらトチ狂ってるような展開とか音使いで、それは刺激になりましたね。他の人からしたら「今さらそこを掘るようにになったの?」っていう感じかもしれないですけど、こんなにユニークな曲を書いている人たちがいて、そういう人たちの面白いシーンがあるんだと思った。Yunomiさんのここ2年くらいの曲作りとか、一体どうなってるんだろうっていうくらい面白いなという気がしてます。

YunomiさんはVtuberに提供した楽曲が今までクラブミュージックとは全く接点のなかったリスナーに届いていたり、活動のフィールドを広げていますね。

そうですね。たとえばYunomiさんが宝鐘マリンさんというVtuberに書いた「Unison」という曲は、すごくポップなんですけど歌モノとして支離滅裂な構成になっていて。今までだったらそういう曲はそんなにオーバーグラウンドに行かないコアなところで止まってたかもしれないんですけど、宝鐘マリンさんという人気のあるVtuberにこんな歌を歌わせているって、すごく面白いなと思いました。もしかしたらこれが今のパンクなのかもしれない、と。すごくいい意味での“マナー知らず感”がユニークな音楽を生む土壌になっているのかなと思います。

ケンモチさんも衝撃を受けたというYunomi作曲による宝鐘マリン「Unison」

コロナ禍でクラブの現場が失われたということもあり、クリエイターがバーチャルな分野でそれまでのルールにとらわれず活躍するようになってきたのかもしれないですね。

みんな、あまりフロアで鳴らすことを考えなくなってきたのかもしれないですね。最近僕が作っているポップス寄りの曲も、音数や展開も多いし、クラブで爆音で鳴らしたらうるさい感じのものなんです。

クラブでユラユラ気持ち良くなる音楽って、ある程度のループ感とか持続性が必要じゃないですか。でも、生活の中で聴く音楽って、秒単位で切り替わっていかないと間がもたなくなっちゃったりする。生活環境とか時代感とか、国によってのスピード感によっても、求められる曲とか作りたくなる曲が変わってくるんだろうなと思います。

「自分のモノサシで1番を取りに行く」

ケンモチさんはバーチャルクリエイティブユニットのππ来来にも楽曲を提供していますよね。ボーカルはVtuberの希来里パイさんが担当して、メタバースでのライブやNFT制作など新たなテクノロジーにも乗り出しているプロジェクトですが、ケンモチさんとしてはこういうテクノロジーと音楽の新しい関係をどんな風に見ていますか?

面白いし、今のうちに乗っかっておきたいなと思っています。僕は結局どこまで行っても音楽を作ることくらいしかできないので、NFTとかブロックチェーンがどういう仕組みで成り立っているのかの詳しいところは分からないんですけど、そこに最初の頃から携わっていた感じになっていたらいいな、と。

ππ来来「Aganushi in me (prod. by #ケンモチヒデフミ)」

ひょっとして、あと何年かしたら、みんながNFTで曲を買うようになったりするかもしれない。音楽を作り続けられるということが担保されるのであれば、いくらでも新しいことをやりたいなと思っています。CDの時も違和感を感じていて「みんなサブスクになったら、めっちゃいいのにな」ってずっと思ってたんですけど、サブスクだけになったら「これだけだと収益構造として発信者には厳しいぞ」ということも見えてきた。それを打開するものとしてNFTが流行るかもしれないという感じです。

結局のところは、音楽を聴く側も作る側もハッピーな状況になって、聴きたい人には届けられる、発表したい人はみんな発表できるというのが理想的だなと思っています。

いろいろお話をお伺いしてきて、ケンモチさんはいろんな分野にアンテナを張っているし、新しい動きにもポジティブに取り組んでいらっしゃると思います。振り返って「作り手としてこういうマインドセットだったのは非常に良いことだったな」と思うことはありますか?

僕は今年で40歳なんですけど、年代的にも、リスナーとしていろんな音楽に触れる機会があって、自分でいろんなものを掘っていける、いい時代に生まれたと思っています。音楽を作るということについても、技術が発展して、プロもアマも同じくらいの機材や予算でスタートできるようになった。そういうこともあって、それまでの音楽の作り方が破壊されて新しくなるたびに、その都度ナンパに乗り換え続けてきたんですね。新しいお客さん、新しい環境に合わせて自分のスタイルを変えたり、または変えなかったりしてきた。そうできたのが、自分には合っていたのかなというところですかね。

TVバラエティ番組とのコラボで誕生した「恋のスパイスカレーぇぇeeeee!〜ナンはおかわり自由です〜」

なるほど。そのつど新しいことを続けてきた。

よく言われることなんですけど、音楽の才能って誰にもないんじゃないかなって、自分としては思っていて。僕も自分が才能があったから音楽をやってるわけじゃなくて、たまたまここまで続けたから続いてるというだけだと思うんですよね。

ずっと続けてきて、経験則で出来るようになってきたから、それをある日耳にした人は「こんなものが作れるなんてすごい」って思うけど、「いや、ずっと作り続けていたら、誰でもこれくらいできますよ」っていう。種明かし的にそうなんじゃないかなって思っているんです。だから、僕も音楽を作り続けられるように、船を乗り換えてここまで来ただけのような気がしていて。それが良かったのかなという感じです。

ケンモチさんの作風として、誰もやっていないことを始めるというのがありますよね。でも、これを実際に形にするのはコロンブスの卵のような難しさがあるなと思っていて。この辺りについて、ケンモチさんから若い作り手にアドバイスするとするならば、どんな事を言えると思いますか?

今はSNSに小さな頃から触れてきて、それが評価のベースになってしまっている人が多いと思うんですけど、一度そこを離れて、人から共感を得られることが最適解ではないという目線を持つのがいいんじゃないかなと思います。みんながいいと思うものは既に誰かがやっているし、そこで100点を目指すのはめちゃくちゃ難しいんですよね。

僕としては、たとえば小学校の科目にしても、国語とか算数みたいなみんなが頑張っているところの1位も、図画工作とか家庭科みたいなみんながあまり頑張らないジャンルの1位も同じ1位だと思っていたので。人が手を抜いているところとか、目をつけていないところを見つけて、頑張る。あまり人からの共感を求めすぎないで、自分のモノサシで1番を取りに行くことを目指すといいんじゃないですかね。

すごく参考になるアドバイスなんじゃないかと思います。

ただ、それで社会的な評価を得られるかどうかはまた別の問題なので(笑)。結局独りよがりなものを作ってしまうことも多々あるので、何とも言えないところなんですけど。一回やってみる価値はあるかと思います。

取材・文:柴 那典

ケンモチヒデフミ プロフィール

Kenmochi Hidefumi
サウンドプロデューサー/トラックメイカー/作詞家/作曲家。
2000年代より『Kenmochi Hidefumi』名義でインストゥルメンタルの音楽を作り、クラブジャズ系のシーンで活動。Nujabes主催のHydeout Productionsよりアルバムをリリース。
2012年より<水曜日のカンパネラ>を始動。現在はxiangyuやその他、アーティストプロデュースや映画、CMなどの音楽も幅広く手掛けている。
2019年5月に自身の9年ぶりのニューアルバム『沸騰 沸く ~FOOTWORK~』をリリースしソロ活動も再開させライブ、DJと勢力的に活動している。

インタビュー前編はこちら