
「Tracklib」CEOが語る、サンプリング・ミュージックの更なる可能性(インタビュー前編)
サンプリング可能なオリジナル楽曲を提供するスウェーデン発の音楽スタートアップ企業「Tracklib」。最近ではDJキャレドの新作アルバム収録曲に同サービスを通じてサンプルが提供されているなど、音楽クリエイターの間ではすでに注目されているサービスです。
2018年4月に正式ローンチ後、現在既に200ヶ国以上の音楽プロデューサーが利用している本サービス。今回、SoundmainではCEOのPär Almqvist(パール・アルムクヴィスト)氏にインタビューを実施し、サービスの使い方を丁寧に説明してもらいながら、サンプリング・ミュージックの未来について語っていただきました。
ビルボードチャートに入る、ヒット曲の一部になる可能性
まずは自己紹介をお願いします。
パール・アルムクヴィストです。TracklibのCEOであり共同創設者です。昔ジャズピアニストとして活動していたこともあり、iTunesのジャズチャートで1位を獲得したこともあるんです。
趣味でジャズピアノを弾いていたんですが、「自分はヒット曲を作れるだろうか」と思い立って、エレクトロニック・ジャズのカテゴリーでトライしてみたら…2004年に達成できました。

ミュージシャンでいらっしゃったんですね。サービスの開発をスタートしたキッカケを教えてもらえますか?
2013年に、スウェーデンのバンド「The Attic」のメンバーでもあるエリック・アマリヨが、「世界中の音楽プロデューサー向けに、合法的にサンプリングが可能になる音楽サービスが必要だよ」とアイデアをくれたんです。
それがキッカケでこのサービスを立ち上げようとプロジェクトがスタートして、エリックもTracklibの共同創設者として参加してくれています。
エリックに加えて、第一線で活躍するクリエイターも顧問として参加してくれています。例えばデ・ラ・ソウルでの活躍で知られる伝説的プロデューサーのプリンス・ポール、トラップのパイオニアの一人でもあるアトランタのドラマ・ボーイ、そして同アトランタのゼイトーヴェンらが参加してくれています。実は近々もう数名参加してくれることになっているんですが、まだ秘密です(笑)。
音楽のライブラリーそして音楽の解放
Tracklibという名前の由来を教えてもらえますか?
二つの単語を組み合わせた造語です。「Track」はもちろん音楽トラックの意味で、「Lib」には二つ意味があり、一つ目はLibrary(ライブラリー)、そして重要なのは二つ目で、音楽におけるLiberation(解放)を意味しています。
現在、サンプリング可能な楽曲数は何曲あるのでしょうか?
現時点で、10万曲以上のサンプリング可能なオリジナル原盤がレーベル・音楽出版社より提供されている状態です。
レアな中国の音楽からレアファンク、ソウル・ルーツやジャズなど、今まで聴いたことのないような楽曲を探すことができます。しかも全てがオリジナル原盤で提供されています。
自分達のカタログを外部の方々に伝えるとき、「今ビルボードチャートに入っている楽曲はありませんが、将来チャートに入るヒット曲の一部になる楽曲はあるかもしれません」と伝えています。
70年代の未発表テイクがダブルプラチナ・ヒットに
Tracklibのサービスを通じてリリースされた曲で、代表的な曲を教えてもらえますか?
まずダブルプラチナ・レコードにも認定されたJ・コールの「Middle Child」です。今年大ヒットした曲の1曲ですね。
1973年にリリースされたファースト・チョイスの「Wake Up To Me」がサンプリングされているんですが、実は使われたのはオリジナル・バージョンの素材ではなく、未発表バージョンのものなんです。
未発表バージョンのマルチトラックをTracklibで提供していたところ、J・コールのプロデューサーのT-マイナスが、フリューゲルホルンのパートを気に入ってサンプリングしたんです。楽曲のメイキング映像では、T-マイナスとJ・コールがTracklibでサンプルを見つけたところから楽曲が作られていったことが語られています。
楽曲のプロデューサー「T-Minus」が、Tracklibを使い楽曲制作したプロセスを語るドキュメンタリー映像
70年代に作られた楽曲、しかもTracklibで提供するまで未発表だったテイクが、この新曲の基礎となったのです。隠れた金塊がプラチナに変化したとも言える、素晴らしいストーリーだと思います。
最新ではDJ キャレドの新作アルバム『Father of Asahd』の1曲目「Holy Mountain」に、ビリー・ボヨの「One Spliff A Day」という曲が使われています。この曲を印象付ける重要なパートとして使われていますね。
「もっと日本の音楽が欲しい」とリクエストされている
因みに今、どういうジャンルの音ネタが世界的に人気がありますか?
今はインド音楽と中国音楽を多数提供していますが、伝統的なもの含めとても人気ですね。そしてブラジル音楽も人気です。
もちろんジャズ、ファンク、ソウル系といったジャンルも人気で、特に60年代から70年代初頭にかけての楽曲が人気です。今、最も需要があるジャンルかもしれません。
ユーザーがどういう風にサンプリングしてくるかを予測するのは不可能ですが、ユーザーが面白いと思ってくれるような楽曲を提供しようと努力しています。我々のサービスが提供する1曲から、何百もの新曲が生まれる可能性があるのが面白いですね。
日本の音楽への需要はありそうでしょうか?
「もっと日本の音楽が欲しい」とユーザーからリクエストされるくらい、日本の音楽へのニーズはとても高いんですよ。まだまだ曲数が少ないですが、最もダウンロードされた楽曲のひとつに日本語で歌われた楽曲が入っているんです。
個人的にもthe brilliant greenやCorneliusなどのアーティストが好きですし、日本の音楽にとても興味があります。日本の音楽は色々な要素が入り組んでいますし、技術的にも音楽的にも音響的にも、素晴らしい才能を持っているクリエイターが日本には沢山いると思います。
ですが世界では、日本の音楽はまだまだ触れられていないと思います。ユーザーがリクエストしてくるということは、彼らにまだ聴いたことのない音楽だからかもしれません。
アーティストとのコラボレーションもおこなっているんですよね?
先日まで、ウータンクランのメインメンバーの一人、インスペクター・デックのニューアルバムに参加できるコンテストを開催していました。選ばれたクリエイターはニューヨークのスタジオでインスペクター・デックと一緒にレコーディングしたんです。
アーティストのコラボレーションについては日本でも色々と実現していきたいですね。
サービス利用の基本的な流れについてCEOが語る後編は以下をご覧ください!
取材・文:Soundmain編集部